日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21_29AM2] 惑星科学

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 416 (4F)

コンビーナ:*奥住 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、座長:洪 鵬(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、大西 将徳(神戸大学大学院理学研究科)

11:00 〜 11:15

[PPS21-08] 隕石海洋衝突下でのアミノ酸の安定性:生物有機分子の化学進化への応用

*梅田 悠平1関根 利守1古川 善博2掛川 武2小林 敬道3 (1.広島大学理学研究科、2.東北大学理学研究科、3.物質・材料研究機構)

地球上の生命の誕生過程を知る上で、生命の基本構成物質であるアミノ酸の起源、安定性、化学進化などについて考察することはタンパク質の起源、さらに生命の起源に直結する重要な研究課題である。初期地球における生物有機分子の生成や化学進化には莫大な量のエネルギーが必要であったと推察されており、その候補には隕石の衝突、落雷、紫外線、放射線などがある (Furukawa et al., 2009; Miller, 1953; Groth and Weyssenhoff., 1960; Barnun et al., 1970)。先行研究により、鉄を主成分とする隕石が原始海洋に衝突することにより引き起こされる化学反応が初期地球上に局所的な還元的環境(アンモニアが存在する環境)を生みだし、その結果として無機炭素から単純なアミノ酸(グリシン)やアミン類、カルボン酸類など様々な有機分子を生成しうることが示唆されている (Nakazawa et al., 2005; Furukawa et al., 2009)。しかし、現状ではこのように生成した有機分子の生成メカニズムやその安定性について不明な点が多く、さらに生体高分子への更なる化学進化に関する議論は一切行われていない。そこで本研究では、後期重爆撃期(38-41億年前)においての高頻度で激しい隕石の海洋衝突によるアミノ酸の化学反応を再現するべく、アミノ酸(アラニン)水溶液に対して衝撃回収実験を行った。実験は隕石物質を模擬したオリビンおよびヘマタイトの固体粉末に初期海洋を模擬したアミノ酸水溶液を浸み込ませたものを試料として使用した。出発試料のアラニンは実験による生成物と汚染物を区別するために、13Cでラベルされたものを用いている。これらを金属製の試料容器に封入し、試料の背後には空気の層が存在する条件で実験を行った。また、周囲の化学種や、酸素フガシティーが実験生成物の量や種類に及ぼす影響について検討するために、先行研究により生成が確認されたアンモニアとベンゼンを出発試料に加えた実験や、固体粉末試料についてオリビンとヘマタイトを使い分ける実験を行った。実験後、抽出した水溶液を東北大学にて、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)を使用し、四種類のアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン)と四種類のアミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン)について定量分析を行った。回収した固体試料については、X線回折分析により鉱物種を同定するとともに、熱力学的計算により、実験における酸素フガシティーを推定した。LC/MS分析の結果、出発試料のアラニンは全ての回収試料から検出され、高温・高圧下においても一部は生存しうることが分かった。また、衝撃圧力が高くなるにつれて、アラニンの残存率は低くなるという傾向が見られた。また、実験による新たな生成物として13Cからなる多種のアミンも検出された。特にオリビン粉末を隕石物質として用い、アンモニアとベンゼンを系内に加えた試料から、出発試料のアラニンよりも炭素数が一つ多いブチルアミンの生成が確認された。回収試料のXRD分析の結果は、ヘマタイト(Hm)および出発試料には無いマグネタイト(Mgt)のピークを示し、酸素分圧がHm-Mgtバッファー近傍であったことが明らかになった。そのような酸素分圧の高い環境ではアラニンの分解がより進み、アミンの生成が支配的になる事が分かった。本研究結果から、後期重爆撃期の隕石海洋衝突において、アミノ酸は生き残る事が可能であるとともに、隕石の衝突エネルギーはアミノ酸の化学進化に重要な役割を果たすということが分かった。また、その化学進化は隕石衝突により発生する温度・圧力だけでなく、周囲に存在する化学種や酸素フガシティーにも影響を受けるという事が明らかになった。