日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS22_1AM1] 隕石と実験からみた惑星物質とその進化

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 415 (4F)

コンビーナ:*木村 眞(茨城大学理学部)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、座長:宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)

09:45 〜 10:00

[PPS22-04] アングライト母天体の半径の推定

*鈴木 博子1小澤 一仁1永原 裕子1三河内 岳1 (1.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:アングライト, 微惑星, 母天体半径, 微惑星内部構造, ドビグニー, 原始惑星

アングライト隕石は非常に古い結晶化年代 (4557 - 4564Ma)を持つ隕石であり(Brennecka and Wadhwa, 2012; Kleine et al., 2012)、分化した原始惑星のマグマ固結物(e.g. Prinz and Weisberg 1995; Baker et al., 2005; Weiss et al., 2008; Suzuki, et al., 2012)と考えられている。このため、アングライト隕石は太陽系最初期の分化した微惑星?原始惑星の情報を持つと考えられ、惑星の形成や分化を明らかにする上で重要である。しかし、その母天体は見つかっておらず、その形成進化過程を知る上できわめて重要な情報である天体サイズは不明である。アングライト母天体の半径の下限値は、ダイナモの存在から示唆される核形成のためには、26Alの壊変による発熱で充分長期間にわたって天体内部が高温に保たれている必要があることから半径100~200km以上とされている(Weiss et al., 2008; Elkins-Tanton et al., 2011)。一方、半径の上限値は、揮発性成分に乏しいこと(Papike et al., 2003)や、スピネルの反応組織を高圧条件での反応であると考え(Kuehner et al., 2006)から、水星サイズ(半径2440km)という主張もあるが、まったく制約されていないと言って良い。このため、アングライト母天体半径により強い制約を課す必要がある。本研究では、アングライト隕石の一つであるD'Orbignyに含まれる真球状気泡(Varela et al., 2005; McCoy et al., 2006)に着目して、アングライト母天体の半径の推定を行った。真球状の気泡サイズは0.3 ? 25 mm(McCoy et al., 2006; Kurat et al., 2004)で、周囲は細粒の初期晶出相であるolivineとplagioclaseにのみ囲まれており、これらの結晶化開始時に気泡の形が凍結されたことがわかる。冷却速度を計算すると数度/時という速い速度が推定され、D'Orbignyは母天体表層で固化されたと考えて良い。また、気泡の濃集層が存在することから気泡がメルト中を運動していたと考えられる。上昇する気泡の形を支配する無次元数には、慣性力と粘性力の比を代表するレイノルズ数、浮力と表面張力の比を代表するエトベス数、気液密度比、気液粘性率比があり、中でもレイノルズ数とエトベス数は天体の重力に依存するため、母天体の半径の制約に用いる事が出来る。上昇している気泡が球状になるか非球状になるかを分けるレイノルズ数とエトベス数の関係は、Bhaga and Weber (1981)の実験やHua and Lou (2007)の数値計算結果により推定されている。D'Orbignyマグマのレイノルズ数とエトベス数を計算するにはメルトの密度や粘性を推定する必要がある。特に重要なのは、これらに大きな影響を与える気泡凍結時の温度である。これは、最初に結晶化したolivineの準安定リキダス温度とし、MELTS (Ghiorso and Sack, 1995)を用いて推定した。この他、最大気泡直径25mm、表面張力を0.35N/m(Walker and Mullins, 1981)、凍結時の気泡表面の結晶被覆率を0.5、金属核を持つ天体である4 Vesta程度の母天体密度4000kg/m3 (Zuber et al., 2011)を用いて、D'Orbignyマグマのアングライト母天体表層でのレイノルズ数とエトベス数の関係を求めた。これらと、球状・非球状領域の境界線との交点から、母天体の半径の上限を700±100kmと推定した。これは、先行研究で主張されていた水星の半径よりかなり小さな値である。