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[PPS23-16] GRAILのLevel-1bとLevel-2データを用いた月重力異常の推定
現在までにいくつかの月の全球重力場モデルが得られているが、2011年9月に打ち上げられた双子衛星GRAIL (Gravity Recovery and Interior Laboratory)によるものが、最も空間分解能が高い。従来地球局から月周回衛星のドップラー追尾によって求められた月の表側の重力場は、SELENEにおけるリレー衛星を用いた衛星間trackingによって全球で得られるようになった。一方GRAILはGRACEと同じ"Tom and Jerry"方式を採用しており、双子衛星間のマイクロ波測距データから重力場を推定する。全球で均一な精度で重力異常分布が得られ、既にScienceの特集号でその科学的成果が注目されている。GRAILによる重力場のデータ(Level-2 data)は十月に公開済みだが、今回はそれに先立って公開されたLevel-1bデータを用いて試験的に月の重力場の推定を試みたので、その結果を簡単に報告する。データはPDS Geosciences Node (http://wwwpds.wustl.edu/)からダウンロードした。GNV1Bデータは一分毎の衛星の位置と速度が与えられている。またKBR1Bデータには衛星間の距離、距離変化率、距離変化の加速度が5秒毎に与えられている。今回はこれら二種類のデータファイルをダウンロードし、衛星高度の低い適当な部分を取り出して、距離変化加速度を観測データとして月面上の質量分布をパラメータ推定した。プログラムは、かつてLunar Prospectorの延長低高度ミッションの視線加速度データから月の重力異常を求めるプログラム(Sugano & Heki, EPS 2004; Sugano & Heki, GRL 2005)を改造して用いた。 今回の発表では2012年3月2-15日の表側のデータと、5月25-29日の裏側の距離変化加速度の値を、双子衛星の中点の位置を用いて地図上にプロットしたものを見せる。衛星高度が25 km以下の部分のみを取り出した。その結果距離変化の加速度が全体に青みを帯びて(負の値をとって)おり、それはプロットした範囲がいずれの期間も近月点近傍であるためである。北から南、南から北のいずれの方向に衛星が飛んでいても、ケプラーの第二法則により近月点に近づくにつれて衛星が速くなり衛星間距離が増え、近月点を過ぎると距離が減少する。つまり距離変化の加速度は近月点付近では負となる。 裏側は緑や黄色の模様がところどころに見えた。これは短波長の重力異常に伴う加速度である。表側と裏側を比較すると、のっぺりした前者に比べて後者の方が細かい加速度変化を繰り返していることがわかった。更に表側の一部について、加速度データを用いて月面上の質量分布を推定したものも今回示す(推定結果はフリーエア重力異常に換算)。湿りの海の正の重力異常(マスコン)を十分に捉えることができた。 次にGRAILのLevel-2 data を用いて個々のクレーターの重力異常を推定する予定である。クレーターの重力異常は、クレーター内部の物質が取り除かれて周囲に堆積することで形成される。従来はクレーターの直径や深さは隕石などの衝突物体の質量やスピードで決まるとされている。月の表裏ではカウラ定数が異なることが知られている(橋本・日置, 2014)が、クレーターの大きさや深さも系統的に異なるとされている。そこには温度の違いが関係しており、一般に熱史の違いの結果の一つとして理解できる。最近の研究では、熱いマントルの温度をもつ表側に生じた衝突盆地は、同じ大きさの物体が裏側に衝突して生じた衝突盆地に比べて大きくなることが示唆された(Miljkovi?, K. et al., 2013)。本研究では、これらを明らかにすることを目標とし、GRAILの詳細な重力場データで個々のクレーターの重力異常の大きさを表と裏で比較を試みる。