日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS25_2PM1] 隕石解剖学: 太陽系物質の総合的理解に向けて

2014年5月2日(金) 14:15 〜 15:00 213 (2F)

コンビーナ:*瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)、薮田 ひかる(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、座長:瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)

14:30 〜 14:45

[PPS25-16] 小惑星イトカワのレゴリス粒子の表面微細構造から考察するレゴリスの宇宙風化過程

*松本 徹1土山 明2三宅 亮2野口 高明3中村 智樹4中村 美千彦4松野 淳也2島田 玲1上杉 健太朗5中野 司6 (1.阪大.理.宇宙地球科学、2.京大.理.地球惑星科学、3.茨城大.理. 理学、4.東北大.理.地学、5.高輝度光科学研究センター、6.産業技術総合研究所)

キーワード:イトカワ, レゴリス, 宇宙風化

惑星間空間にさらされた大気の無い天体表面では、主に微小隕石の衝突と太陽風の照射により、表面の光学物性が変わり反射スペクトルが変化する。これらの現象は宇宙風化と呼ばれ、シリケイト天体ではナノ鉄微粒子の生成が原因と考えられ、観測から天体表面の物質的情報を得ることを難しくさせている。小惑星表面においても、太陽風照射・微小隕石衝突による宇宙風化が考えられているが[1]、具体的な宇宙風化の進行過程を理解するためには小惑星サンプル分析が不可欠である。2010年S型小惑星イトカワ表層からのレゴリス粒子(小惑星表層の微細粒子)を回収した探査機はやぶさが地球に帰還した。イトカワ粒子の初期分析により、太陽風の打ち込みの証拠や、粒子表面に主に太陽風照射に起因するナノ鉄微粒子を含む宇宙風化リムが観察された[2-4]。一方で、一部の粒子外形は丸みを帯び、その表面微細構造をもち小惑星表層で起こると思われる摩耗作用を受けた構造が観察されている[5][6]。本研究では、イトカワ粒子の表面モルフォロジーに注目した。特に粒子表面構造の系統的な分類・解釈を行うとともに、宇宙風化リムの観察を行うことで、小惑星表層のレゴリス粒子の活動と、小惑星の宇宙風化過程との関連性を明らかにすることを試みた。まず、19個のイトカワ粒子についてX線マイクロトモグラフィー(CT)による3次元外形の評価・走査型電子顕微鏡(FE-SEM)による表面微細構造の観察を行った。その結果、レゴリス粒子表面は、レゴリス粒子生成時もしくは生成後に破断した面、レゴリス粒子形成前のmatrix/regolith breccia内の空隙での蒸発・凝縮により生成した面に分類できることが明らかとなった。またCT・FE-SEM分析から、これらの表面の種類に関係なく、摩耗作用を受けた丸みを帯びた表面が存在することが分かった。続いて、1つのイトカワ粒子に対して透過型電子顕微鏡(TEM/STEM)を用いた宇宙風化リムの断面構造観察を行い、FE-SEMにて観察した表面構造との比較を行った。TEM/STEMで観察した宇宙風化リム内部には空隙が存在し、空隙の一部は表面を押し上げて、大きさ数十nmのブリスター(水ぶくれ状の)構造を形成していた。この構造はFE-SEM観察によって表面の凸状構造として認識できることが明らかになった。ブリスターを伴うリムはイトカワ粒子の宇宙風化リムのうち、最も長時間太陽風に暴露され形成したリムと考えられており(103-104年[4])、粒子の表面観察のみで粒子表面の宇宙風化の程度を判断できることを示した。本研究では、粒子表面のブリスター分布から小惑星表層のプロセスと関連したS型小惑星の宇宙風化プロセスについて考察した。 従来S型小惑星の宇宙風化プロセス(スペクトル変化)は太陽風照射(106 年)とそれに続く微隕石衝突(109 年)の2つの異なるタイムスケールで進行すると提案されていた[7]。宇宙風化を受けたイトカワ表面のレゴリス層の年代も106年程度である[8]。一方で、イトカワ粒子の宇宙風化リムの発達は、103-104年程度で進行すると考えられる。このタイムスケールの不一致を本研究の観察結果から考察した。まずブリスター分布と粒子の丸みに相関性がない事から、摩耗過程は、太陽風照射ではなく、地震震動による粒子同士の機械的摩耗の可能性が高く、宇宙風化リムの形成よりも長いタイムスケールで起こる現象であると考察した。機械的摩耗は宇宙風化リムの剥離を引き起こすと考えられる。一方でレゴリス粒子の破砕による宇宙風化表面の更新、レゴリス粒子のかき混ぜ・移動を示唆するブリスター分布の不均一性が観察された。イトカワの宇宙風化のタイムスケールを考えると、個々のレゴリス粒子の局所的な表面に太陽風照射によって宇宙風化リムが103-104 年程度で発達しても、イトカワ表層でのプロセス(レゴリス粒子の破砕、摩耗、かき混ぜなど)により、イトカワ全体を考えたときのスペクトルの変化は徐々に進行し、最も遅い場合で106 年程度で起こるという描像が考えられる。[1]Clark B. E. (2002) Asteroid , 585-599. [2] Nagao K. et al. (2011) Science, 333, 1128-1131. [3] Noguchi T. et al. (2011) Science, 333, 1121-1125. [4] Noguchi T. et al. (2013) Met. Planet. Sci.27, 1-27 [5] Tsuchiyama A. et al. (2011) Science, 333, 1125-1128. [6] Matsumoto T. et al. (2013) LPSC XLIV, 1441. [7] Vernazza et al. (2009) Nature, 458, 993-995. [8] Busemann et al. (2013) Hayabusa 2013: Symposium of Solar System Materials.