日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63_2PO1] 断層帯の化学

2014年5月2日(金) 16:15 〜 17:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、田中 秀実(東京大学大学院理学系研究科)、村上 雅紀(応用地質株式会社)

16:15 〜 17:30

[SCG63-P01] 敦賀地域江若花崗岩中に分布する破砕帯の冷却史:複数の熱年代学的手法による制約

*末岡 茂1安江 健一1丹羽 正和1島田 耕史1石丸 恒存1梅田 浩司1山田 隆二2檀原 徹3岩野 英樹3郷津 知太郎4 (1.原子力機構、2.防災科技研、3.京都FT、4.蒜山地質)

キーワード:断層帯の年代測定, フィッション・トラック法, K-Ar法, U-Pb法, 江若花崗岩

通常,断層の活動年代は,断層変位を受けた地形面や地層,または人工物などの変位指標の年代から推定される.しかし,基盤岩中の断層など,変位指標を持たない断層についてはこのような変動地形学的な手法は適用できない.上記のような断層に対しては,断層活動時の摩擦発熱や岩石破砕に伴う放射年代のリセット(例えば,Ikeya et al., 1982; Murakami and Tagami, 2004; Yamada et al., 2013; 雁沢ほか,2013)や,断層活動後に形成された粘土鉱物や熱水脈の形成年代(例えば,Zwingmann et al., 2004; Watanabe et al., 2008; Siebel et al., 2009; Yamasaki et al., 2013)に基づいた,地球年代学的なアプローチが試みられてきた。しかし,断層帯近傍における熱現象や物質移動は単純ではなく,決定的な方法は未だに確立されていない。同手法の今後の発展のためには,さらなる基礎研究と,様々な地形・地質条件と年代測定手法の組み合わせにおける事例研究の蓄積が必要である.
本講演では,敦賀半島北西部の露頭で見られた基盤岩中の断層破砕帯に対し,フィッション・トラック法(FT法),K-Ar法,U-Pb法といった熱年代学的手法を適用して冷却史を求め,活動年代の推定を試みた事例について紹介する.近畿三角帯の北頂部にあたる湖北地域~敦賀湾沿岸には,湖北山地断層帯や野坂・集福寺断層帯をはじめとした北東‐南西または北西‐南東方向の横ずれ断層が多数分布する(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2003a, b)が,山間部を通過する横ずれ断層では上載地層を利用した変動地形学的手法の適用は困難なことが多い.本研究で対象とした断層も江若花崗岩敦賀岩体(栗本ほか,1999)中に形成された横ずれ断層で,人工改変の影響もあり上載地層や変動崖は認められない.年代測定は,1)断層破砕帯を充填する粘土状物質,2)断層破砕帯から10数m離れた断層破砕を受けていない花崗岩新鮮部,3)断層破砕帯から数mの位置に貫入した玄武岩脈,の3グループについて行った.破砕帯試料と花崗岩試料では,ジルコンU-Pb年代(66.8+/-1.0Ma,68.5+/-0.7Ma)とジルコンFT年代(58.7+/-11.2Ma,71.6+/-4.8Ma)では有意な差が見られず,ジルコンFT長(11.04+/-0.71μm,10.84+/-0.66μm)にも共に短縮は認められなかった.これは,約68Maの花崗岩貫入以降,花崗岩がジルコンFT法の閉鎖温度(210~350℃)付近に冷却されるまでの間,両者は冷却史を共有していたことを示している.一方,アパタイトFT年代(閉鎖温度:90~120℃)では,花崗岩で50.8+/-18.5Maに対して破砕帯で28.4+/-13.6Maという若い値が得られており,年代値の誤差が大きいため断定はできないが,破砕帯のみがより最近に被熱している可能性が否定できない.熱源の候補としては,新第三紀以降の断層摩擦発熱と,中新世の玄武岩脈の貫入(斜長石K-Ar年代と全岩K-Ar年代で19.1~18.8Ma)が挙げられるが,いずれの場合もイベント年代よりアパタイトFT年代が古く,partial annealingの状態である可能性が考えられ,イベントとの対応には慎重な検討が必要である.講演当日は,FT長測定の結果も踏まえた検討結果を報告予定である.