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[SCG64-10] S波の振動方向を用いた深部低周波微動の発震機構解推定―S波スプリッティングの補正―
キーワード:深部低周波微動, 発震機構解, Polarization解析, S波スプリッティング
世界各地のプレート境界域で発見された深部低周波微動は、巨大地震の発生機構を解明するための重要な手掛かりとして注目されている。微動に有効な震源決定法はいち早く開発され(Obara, 2002)、発生場所や活動様式についての理解に繋がっている。一方、どのような運動で発生しているのかを表す発震機構解は、同じ場所で発生している微動を数多くスタックしてSN比を上げることで可能となるが(Ide et al., 2007; Bostok et al., 2013)、結果としてごく一部の解しか推定できないという問題点が残される。今西・武田(2010)は連続波形のPolarization解析により、微動が発生している時間帯になると振動方向のばらつきが小さくなることを明らかにした。同様の結果はカスケードの微動においても報告されている(Bostock and Christensen, 2012)。微動は主にS波で構成されていることから(例えば、Obara, 2002)、ここで見ている振動方向はS波によるものである。S波の振動方向は発震機構解に依存しているので、複数観測点の振動方向を使うことで発震機構推定が可能となる。しかし、S波は異方性媒質中を伝播するとスプリッティングを起こすため、その影響を正しく評価しないと発震機構解の推定に影響を及ぼしてしまうことに注意が必要である。実際に通常地震を用いた研究では、スプリッティングの影響を考慮しないで求めた振動方向は発震機構解から計算される振動方向と矛盾することが報告されている(例えば、Zhang and Schwartz, 1994)。本研究ではまず始めに、微動データに対して異方性解析(Silver and Chan, 1991)を行い、スプリッティングが存在しているか否かを調べた。解析においては観測波形に2-8Hzのバンドパスフィルターを掛け、1分のタイムウィンドウ毎に早いS波の振動方向(LSPD)および早いS波と遅いS波の到着時間差(DT)の推定を行った。推定されたDTは0.1秒ほどあり、震源放射に関係したS波の振動方向を正しく求めるためにはスプリッティングの補正が必要である。推定されたLSPDはプレートの沈み込み方向にほぼ直交するものと平行するものの2パターンが卓越しており、それぞれ明瞭な空間分布を示す。これらの結果は通常地震を用いた既存研究(例えば,Saiga et al., 2011)と調和的であり、SN比の悪い微動であっても異方性パラメータの推定が可能であることが確認できた。次に以下の手順に従い、スプリッティングの影響を補正して発震機構解を推定した。(1)水平2成分を早いS波の振動方向と遅いS波の振動方向に回転し、遅いS波の振動方向を時刻DTだけ進める。その後逆回転させて東西、南北方向に戻す。(2)1分のタイムウィンドウ毎にPolarization解析を行い、振動方向を推定する。(3)振動方向の平均値と標準偏差を1時間ごとに計算する。(4)複数観測点の振動方向を最も良く説明できる発震機構解(ダブルカップルを仮定)を1時間ごとにグリッドサーチにより推定する。この際、震源の深さは35kmと仮定し、震央はエンベロープ相関法で決められた位置の1時間平均とする。(5)ブートストラップ法により解の推定誤差を評価する。以上の解析を2013年4月上旬に三重県北部で発生した微動活動に適用した。周辺の定常地震観測点に加え、この地域に展開している臨時観測点(7地点)のデータも利用した。推定結果を見ると、北西側が低角で南東側が高角の節面を持つ解が多い。振動方向に180度の曖昧性があるため本手法のみではP軸とT軸を決めることができないが、周辺で起こっている超低周波地震の結果(Ito et al., 2007)を考慮すると、低角逆断層型とみなすのが妥当であろう。また、推定誤差を考慮しても横ずれ成分を多く持つ微動も起こっていることが明らかとなった。発表においてはさらに多くの活動を解析することで、発震機構解の空間分布や時間分布の特徴について報告する。謝辞:解析には防災科学技術研究所(Hi-net)、気象庁、東京大学地震研究所の波形データを利用させていただきました。本研究はJSPS科研費(24540463)の助成を受けたものです。