日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64_30PO1] スロー地震

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、小原 一成(東京大学地震研究所)、中田 令子(海洋研究開発機構)

18:15 〜 19:30

[SCG64-P03] 2014年1月房総半島沖スロースリップイベントと群発地震活動

*木村 尚紀1 (1.防災科学技術研究所 (防災科研))

キーワード:スロースリップイベント, プレート境界, 群発地震活動, 関東地方

はじめに
房総半島沖ではスロースリップイベント(Slow Slip Event: SSE)が群発地震を伴って4-7年間隔で繰り返し発生することが知られている。これまでに1983年、1990年、1996年、2002年、2007年、および2011年の発生が知られており、最新の活動は 2013年12月末から2014年1月にかけて2年2カ月の繰り返し間隔で再来した。
SSEは、プレート境界浅部の巨大地震が発生する固着域と、深部の定常すべり域との間に位置する、プレート境界の性質が変化する遷移的な領域で発生する現象と考えられている。関東地方南部では、フィリピン海プレート上で1923年関東地震(MW7.9) が発生し、その翌日に房総半島沖でMW7.5の最大余震が発生した(武村、1994; Kimura et al., 2009; 本多ほか、2014)。房総SSEすべり域は最大余震震源域の深い側に位置しており、その活動を把握することはプレート境界での応力の蓄積状況をモニタリングする上で重要である。
そこで、房総SSEに伴う群発地震の詳細な活動履歴を明らかにするとともに、測地データの解析によりSSE断層モデルを決定した。

データ・手法
房総半島沖の深さ30km以浅、2005年1月1日以降に発生した地震を対象として、波形相関を用いたDouble Difference 法によって詳細震源分布を決定した。初期震源は防災科研Hi-netによる。ただし、一部自動処理結果を含む。
防災科研Hi-netに併設された高感度加速度計(傾斜計)による記録を元に、Obara et al. (2004) に従い、断層位置・形状については genetic algorithm inversion、すべり量は最小二乗法により一様すべりの矩形断層モデルを決定した。傾斜変動の顕著な2013年12月31日から2014年1月6日にかけての傾斜変動量を用いた。傾斜記録は潮汐成分、気圧応答成分の補正を行った後、リニアトレンド成分を除去し、気圧補正には、波崎2観測点(HA2H)の気圧観測値を使用した。すべりの方向はプレートの相対運動方向に固定した。

結果
今回の房総SSEに伴う群発地震の大部分は、これまでの房総SSEに伴う群発地震の発生域(以後、地震発生域とする)の北端周辺で発生した。はじめ、一宮沖で地震が発生しはじめ、その後西に発生域が移動するとともに、地震発生域の南端および勝浦直下周辺でも地震が少数発生した。はじめ西の海域で地震が発生し東に移動する点は過去の房総SSEと同様である。2007年は主に地震発生域の北端周辺で地震が発生しており、これは今回の活動と類似している。ただし、群発地震の広がりは2007年の方がやや大きく、地震発生数も2007年の方が多い。一方、2011年は勝浦直下辺りでも多くの地震が発生した。
最大の傾斜変動は勝浦東観測点(KT2H)において北西傾斜の約0.4 μradianの変動が観測された。房総SSEのすべり域は勝浦沖に決定され、規模はMW6.1と推定された。すべり域の位置は、傾斜データから推定された2007年(Sekine et al., 2007)および2011年(Hirose et al., 2012)の初期のすべり域とほぼ重なる。傾斜データを見ると、2007年(MW6.4)と比較してKT2Hでの傾斜方向はほぼ同じだが変動量は約1/2と小さくSSE全体の規模が小さいことと調和的である。2007年と比較して今回の地震発生数が少なかったことは、SSE規模の違いを反映している可能性がある。2011年ははじめの2日半で西北西方向に約0.3 μradian の傾斜変動が見られ、この期間の規模はMW6.2と推定された(Hirose et al., 2012)。この期間の傾斜変動の方向・変動量、およびSSEの規模は今回に近い。また、この期間には地震発生域の北端周辺で地震が発生しており、今回の活動と類似している。一方、2011年は初期の活動に続いて勝浦直下でも地震が発生するとともに、北北西方向に約1.0 μradianに達する大きな変動が見られたが、今回はこれに対応するような地震活動および傾斜変動は観測されていない。

議論
今回は、過去約30年間で最短の間隔で再来した。2011年房総SSEは再来間隔がそれまでで最短だったが、SSEの規模はそれまでとほぼ同程度であり、2011年東北地方太平洋沖地震および余効変動による応力変化が房総SSEの応力降下量の大きな割合に相当することから、応力増加により発生が早められた可能性が提案されている(Hirose et al., 2012)。これに対して、今回はこれまでより規模が小さく、すべり域がほぼ同じだとするとすべり量が小さい可能性がある。このことは、これまでより応力蓄積量が小さい状態で発生し、そのために再来間隔が短くなった可能性を示唆している。房総半島沖の応力蓄積過程を明らかにするためには、さらにデータを追加し房総SSEの詳細な震源過程を明らかにする必要がある。

謝辞:
解析には東京大学地震研究所および気象庁による地震観測データを使用させて頂きました。記して感謝いたします。