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[SCG65-08] 南アフリカ金鉱山の震源の応力場と強度の研究の到達点・課題・将来
キーワード:南アフリカ金鉱山, 地震発生場, 応力, 強度, 原位置観測
南アフリカ(南ア)金鉱山は、震源の至近距離で岩盤挙動をつぶさに観察できるため、1991年にIASPEIで地震の実験場と認められた後、日本と南アとの共同研究が続いている。とりわけ2009年以後は、物的・人的資源がかつてない規模で投入され、他の取り組みでは得られない成果が得られつつある。本発表では、この取り組みの一部の成果である地表下1.0~3.4kmで行われた7つの現場応力測定、応力モデリングの高度化、地震 Back Analysisによる震源の応力・強度の拘束などの到達点と課題、将来について、日本と南アの共同研究の成果を中心に概観する。南アの既存の方法による金鉱山の高応力岩盤での応力は、技術的にもコスト的・時間的にも、現場測定が困難でデータがほとんどなかった。しかし、日本の技術(円錐ひずみ法)を南ア金鉱山の事情に合わせて小型化して導入し、地表下約3.0kmのM1.5の地震被害の付近や、地表下1.0kmであるが周囲が採掘済みである200m x 400mの残柱など、これまで測定も計算機予測も困難であった場所において高い応力の測定を行うことができた。7つの現場で測定された最大主応力は約80MPa~146MPaで、測定地点の岩盤の一軸圧縮強度は約200~300MPaであった。これらの応力測定が可能になったのは、地震発生場では、当然ではあるが、破壊が起こりやすい為に応力測定だけでなくドリリング自体が容易でないが、測定を確実に成功させるための経験も蓄積されたからである。採掘が少ない地域では、地表下3.4kmまでの初期応力場(採掘前の応力場)のモデルが精緻化され、計算機応力モデリングが原位置測定応力をほぼ再現できていることが確認されつつある。採掘現場付近や地震発生場などの岩盤の挙動をより正確に表現できるような、ピーク強度や残留強度、不均質に関する情報を多点測定で得ることが次の目標である。鉱山では、比較的大きな地震が発生する度に、発震機構解や統計地震学的な評価などルーチン的な地震解析だけでなく、計算機応力モデリングによって震源断層上の応力や強度の評価も行われている。初期応力場のモデルを現場応力測定によってより正確に押さえることができたため、地震発生の条件もより正確に理解することができつつある。2007年12月27日のクリスマス休暇中にJAGUARSのAE観測サイトの直近で発生したML2.1の地震は、地震破壊面が高精度で描き出されたため、計算機応力・地震発生モデリングを評価するのに希有の機会となった。この震源断層を貫通するドリリングが行われ、ボアホール・ブレークアウト(BB)とコア・ディスキング(DC)の解析によって、応力場を拘束することができ、空間分布パターンは応力計算機モデルと調和的であるが、計算機モデリングの絶対値がやや小さいことや、BBやDCがボアホール中に一様に発生していた訳ではないので、応力か強度が均質ではなかったことも示唆されている。地震前後の震源付近の変形が、計算機予測よりも石井式歪計の連続観測結果の方が大きく、実際の応力変化の方が計算機予測よりも大きかった可能性についてはポスターで紹介する。以上のように、南ア金鉱山の地震発生場では、応力や強度や地震発生の理解、測定、予測の高度化が進み始めている。これらを更に進めることができれば、自然地震の応力場をリモート予測する研究によって見ることができる事とできない事とを検証する場として南ア金鉱山は重要な役割を果たすと期待される。