11:15 〜 11:30
[SCG68-09] 重力から見た別府湾ならびに周辺の地下構造
キーワード:重力解析, 別府湾, 中央構造線, 朝見川断層, 別府湾中央断層
1988~1990年に京都大学理学部と(株)地球科学総合研究所によって行われた別府湾ならびに豊後水道における海上反射法地震探査の成果(由佐ら,1992)は,九州における中央構造線の構造ならびに随伴する堆積盆地の形成に関する研究の新たな展開の契機となった(山北ほか,1995;;Ito et al., 1996).しかし,由佐ら(1992)の示した領家帯の速度は花こう岩と変成岩から構成される同帯の速度としては低過ぎ,領家帯上面の形状は良いものの領家帯下の中央構造線(MTL)の傾斜角が小さく評価されている懸念があった.また,別府湾奥部が反射法測線群の端部であることから別府湾堆積盆地構造が完全には解明されずに残されていた.一方,別府湾内ならびに周辺には由佐ら(1992)が提供したものを含めてたくさんの重力データが存在しており(地質調査所編,2000;Gravity Research Group in Southwest Japan, 2001):,正確な反射断面データと結合することで,別府湾堆積盆地の構造を解明することが期待される.幸い昨秋,多重反射を抑制しつつ速度構造を再決定したうえでの豊後水道測線(J測線)再処理断面が物理探査学会において新たに報告された(阿部ほか,2013).そこでこの再処理断面と重力データを用いて,陸域で朝見川断層(AF)を横切り,別府湾中央部をG測線にそってN70E方向に走り,別府湾中央断層(BCF)を横断して,別府湾口にいたる約35kmの地下構造を推定する作業を行った(図A).構成する地質体は,三波川帯(Sm,ρ=3.0g/cm3),領家帯(Rk,ρ=2.8g/cm3),別府湾新規堆積物下部層(Bl,ρ=2.6g/cm3),同上部層(Bu,ρ=2.4g/cm3)である.地質体の境界については,J測線再処理結果ならびに既存の地質学的データから中央構造線(MTL)の地下における位置と形状,ならびに朝見川断層の陸上位置のみを与え,他は重力データと適合するように試行錯誤を繰り返して得られたのが,図Bである.由佐ら(1992)のFig.9に示されたG測線の基盤(領家帯)上面形状(最奥部は不明)はこの重力解析から得られた領家帯上面とほとんど一致していることから図の信頼性は非常に高いと判断される.そこでこの図を基に,由佐ら(1992)の成果も取り入れて別府湾堆積盆地の構造を考察した結果,以下の点が明らかとなった.1.別府湾堆積盆地の中心部分(湾奥部)はいずれもリストリックな正断層である北東傾斜の朝見川断層系(AFS)と南西傾斜の別府湾中央断層系(BCFS)によって形成されている.両断層系とも由佐ら(1992)のFig.9の示すとおり別府湾新期堆積物中にロールオーバー構造を伴っている.2.AFSは3つの断層(I,II,III)によって構成されいずれも地下のMTLに収斂する.断層AFS-IIが新規堆積物最上部まで切断しているかどうかは,反射法測線Gの西端部に近いため不明である.鉛直変位の総計についてはAFの西側に新規堆積物がどの程度存在するか,さらに領家帯上面がどの程度侵食されてきたかによっても変わるが3000mに達する可能性がある.3.BCFSを構成するBCFS-IとBCFS-IIの2つの断層は,図が小縮尺のため読み取り難いが新規堆積物上部(Bu)底面をそれぞれ250m,150m程度鉛直変位させ,最上部層まで切断している.しかし,いずれも新規堆積物下部(Bl)底面,すなわち基盤の領家帯を切断していない.4.MTLとそれに接続するAFSの活動により上盤(領家帯)が図上で東側に運動することによって別府湾堆積盆地が形成・成長したと判断される.BCFSはこのプロセスのなかで新規堆積物内に形成され,盆地成長に寄与している断層群である.以上の結果は,山北・伊藤(1999)が提示した,開放性屈曲を伴う傾斜した断層面をもつ横すべり断層による堆積盆形成モデルと,大局的には合致する.同モデルでは,堆積体内部に形成される主断層とは逆傾斜の副次的断層群の効果については,考慮していなかったが,別府湾堆積盆では一定の効果を有している.ただし,副次的断層群としてのBCFSは堆積盆地の基盤を切断しておらずその寄与量はそれほど大きくはない.今後,山北・伊藤(1999)のモデルによる別府湾堆積盆形成過程の解明を更に進めるため,以下のような検討が必要であろう.1.MTLが低角化する深度を確定する.2.MTLに沿う運動における水平成分と鉛直成分の比率を見積もる. このことをすすめるためにも,京都大学と(株)地球科学総合研究所が行った反射法地震探査データ再処理作業の進捗を期待したい.