日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM36_30PM2] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2014年4月30日(水) 16:15 〜 17:45 413 (4F)

コンビーナ:*山崎 健一(京都大学防災研究所)、多田 訓子(海洋研究開発機構)、座長:多田 訓子(海洋研究開発機構)、山崎 健一(京都大学防災研究所)

16:15 〜 16:45

[SEM36-04] マグマの脱ガスフラックス推定のための電気伝導度構造の利用

*小森 省吾1鍵山 恒臣2フェアリー ジェリー3 (1.中央研究院地球科學研究所(台湾)、2.京都大学火山研究センター、3.アイダホ大学)

キーワード:バルク電気伝導度, 間隙水電気伝導度, 表面伝導度, 火山ガスフラックス, 雲仙火山地域

火山活動は,マグマが地表まで急速に上昇し爆発的噴火に至る活動から,マグマが途中で上昇を停止し地表に地熱兆候をもたらすのみで終息する活動まで様々である.マグマの上昇のしやすさは,マグマの粘性・周囲との密度差に依存する.マグマの粘性・密度を規定する要因の1つである火山ガス(揮発性物質)は,マグマの上昇過程で含有量を大きく変化させる.それゆえ,マグマからどれだけ効率的に揮発性物質の放出がなされているかを明らかにすることが,上記の様な火山活動の多様性を考える上で重要である.火山ガスは,地下水に溶解すると地下水の成分濃度・温度を増加させ,間隙水の導電性を高める.また,変質作用が高導電性の粘土鉱物(スメクタイト)の生成を促すため,熱水に晒された岩石もまた導電性(表面伝導度)を増加させる.それゆえ,高電気伝導度領域の広がりは,マグマからの火山ガスの散逸の指標になる可能性がある.我々はこのことに着目し,下記に示すように,火山体の電気伝導度分布を利用した火山ガスフラックスの推定法の開発に取り組んできた.[熱水温度が母岩の表面伝導度に与える影響の定量的検討]間隙水の電気伝導度は,既存研究により熱水の温度と溶存成分濃度の関数として定式化されている.一方で,表面伝導度とそれを制御するスメクタイトの生成・安定条件(特に温度)との対応関係は,今まで必ずしも明確に定量化されていなかった.そこで我々は,温泉・火山体掘削等で得られたコアサンプルを利用した電気伝導度測定試験により母岩の表面伝導度を推定し,これを曝露された熱水温度の関数としてプロットすることを試みた.本研究には,低温熱水系として雲仙火山USDP—1サイトにおける掘削コアを,比較的高温の熱水系として別府地域の掘削コアを用いた.その結果,母岩の表面伝導度は,スメクタイトの生成・安定条件に対応する熱水温度の簡単な関数として表現できる可能性が明らかになった(Komori et al., 2010, 2013). [雲仙火山地域への適用を目指した火山ガス散逸モデルの構築]雲仙火山地域では多くの地球物理・化学的研究がなされ,1990—1995年の噴火活動期を含めたマグマの移動や脱ガス・温泉生成機構に関する様々なモデルが提案されている.Ohba et al. (2008)によれば,雲仙火山のマグマは3段階の脱ガス過程を経ており,第1段階の脱ガスは深度4—6kmで起こると考えた.この脱ガス深度は,Kohno et al. (2008)によって得られている島原半島西部の圧力源群の位置と一致する.さらに前述の圧力源の直上には,200℃以上の高温領域が存在していることが知られており(NEDO, 1988),この領域とほぼ一致するように電気伝導度の高い領域が存在することがSrigutomo et al. (2008)のTDEM調査により明らかにされている.本研究では,大沢(2006)による島原半島の温泉生成機構も参考に,上記研究に基づいた簡単な火山ガス散逸モデルを構築しTDEMによる電気伝導度構造を用いることで,火山ガスフラックスを推定することを試みた.単純な形状・物性を持つ帯水層を仮定し,火山ガスの付加に伴い生じる熱水の溶存成分濃度・温度・フラックスの条件などを変えた数値計算を行った.これにより,熱水流動に対応した間隙水の溶存成分濃度・温度の空間分布が求められる.これらの分布は,間隙水の電気伝導度・母岩の表面伝導度に変換される.さらに,これら2つの導電性成分をバルク電気伝導度に合成することで,熱水流動とバルク電気伝導度構造とを対応付けた.その結果,雲仙火山地域において,高電気伝導度領域の空間分布は,天水付加量・火山ガスフラックスの2者で本質的に決まる可能性が明らかになった(Komori et al., under review).[推定された火山ガスフラックスから考える脱ガス効率性・火山活動様式]上記で得られた知見をTDEMによる島原半島西部の電気伝導度構造に適用した.その結果,火山ガスフラックスが10^4.8±0.5 t/yrと推定された.この値から計算されたマグマ性CO2フラックス(10^3.1±0.5 t/yr)・マグマの貫入レート(10^0.1±0.5 million t/yr)は,他の地球化学・物理学的手法によって得られている値と整合的であることが分かった.本研究により,雲仙火山では,数十年間隔で起こる間欠的なマグマ貫入の度に地下でマグマが効率的に脱ガスしている可能性があり,これがドーム形成のようなeffusiveな噴火活動が卓越する要因の1つになっているかもしれないことが定量的に示唆された(Komori et al., under review).