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[SGD22-04] 小笠原硫黄島の大規模隆起:札幌-那覇重力計検定結果に基づく重力変化
キーワード:小笠原硫黄島, 重力, スケールファクター, マグマ
小笠原硫黄島は,東京の約1200km南に位置する火山島である.その山頂には直径が約10kmのカルデラを有し,その中央部から南西端付近までの領域が海上に現われている.小笠原硫黄島の火山活動は極めて活発な隆起活動を伴うことが特徴の一つであり,防災科学技術研究所は間欠的な大規模隆起イベントの発生およびその地殻変動分布を明らかにしてきた(Ukawa et al., 2006).1996年からは地殻変動測量に加えて重力測定も開始し,鵜川ほか(2006)は隆起時におけるマグマの関与を示した.小笠原硫黄島では,2003年初頭から2006年中頃まで,定常的な沈降が進行していたが,2006年中頃に急激な隆起の加速が観測された.2007年以降,隆起は徐々に鈍化する傾向にあったが,2011年2月頃に隆起の再加速が観測され,防災科学技術研究所および国土地理院のGNSS連続観測によれば,再加速開始から2012年4月頃までに,2m近い隆起が観測されている.2012年4月後半には,北東沖において変色水が観測され,それ以降の隆起活動は鈍化傾向にある.この大規模隆起イベントの地殻変動および重力変化を測定するため,我々は,これまで防災科学技術研究所が測量を行ってきた観測点において,GNSSキャンペーン観測および重力測定を行った.GNSSキャンペーン観測の結果については,第120回測地学会講演会および日本火山学会2013年度秋季大会において報告した.重力測定についても速報結果を報告し,使用した重力計(Scintrex社製CG-3M#284, #371)のスケールファクターの時間変化に関する不確定性が大きいことを述べた.そこで,スケールファクターを決定するため,札幌-那覇間の重力測定を実施した.本講演においては,その測定結果から明らかとなったスケールファクターの時間変化と,その結果に基づいて推定された小笠原硫黄島の重力変化について報告する.札幌-那覇間重力測定は,防災科研(Bosai-BS),国土地理院(Tsukuba-GS, Tsukuba-FGS),羽田空港(Haneda-GS),千歳空港(Chitose-GS),北海道大学(Sapporo-GS),沖縄気象台(Naha-GS, Naha-FGS)との往復測定を行った.測定値の解析においては,重力計のドリフト率を一定と仮定して,各観測点での相対重力値と同時にドリフト率も推定した.そして,推定された相対重力値が日本全国重力基準網(JGSN96)で示されている重力値(国土地理院測地部,1997)に整合するように,スケールファクターを求めた.なお,Sapporo-GSは移設されたため,国土地理院が測定した重力値を用いた.その結果,#284のスケールファクターは2006年と比べて+2×10-5程度の変化であったのに対して,#371については-1×10-4程度の変化が見られた.スケールファクターの時間変化は一定ではなく,線形近似によって推定された値と有意に異なることが明らかとなった.つまり,大きい重力差を測定する場合において,100マイクロガル以下の値を議論する場合には,スケールファクターの時間変化の考慮が極めて重要であると言える.推定されたスケールファクターを用いて,小笠原硫黄島の基準点(IWO101)の重力値を求めたところ,#284と#371の測定値は27マイクロガルで一致し,2006年における測定値との差は-0.734mGalと求まった.この期間における隆起量は3.05mであり,これらの値から計算される重力変化率は-0.241mGal/mとなる.この値は,2001年から2002年に発生した大規模隆起に関して,鵜川ほか(2006)が求めた変化率と全く同じである.この結果は,2006年からの大規模隆起イベントにおいても,同様の密度を持つマグマが貫入したことを示唆している.謝辞. 小笠原硫黄島の測量においては,海上自衛隊硫黄島航空基地気象班の方々に協力していただいた.また,株式会社オオバの方々には,GPS観測と解析および重力測定の一部を実施していただいた.さらに,国土地理院の物理測地課重力係には,重力基準点の使用許可をいただくとともに,各重力点の重力値を教えていただいた.さらに,北海道大学の古屋正人教授,北海道大学総合博物館の松枝大治名誉教授,沖縄気象台の方々には,重力基準点の使用を許可していただくとともに,観測に協力していただいた.関係各位に感謝の意を申し上げる.