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[SGD22-05] 南極・セールロンダーネ山地周辺地域における絶対重力測定
キーワード:絶対重力測定, セールロンダーネ, 南極, 氷床変動, 重力変化, 重力基準点
第55次南極地域観測隊(JARE-55)では,スポット観測の一環として,氷床変動やGlacial Isostatic Adjustment (GIA)などに伴う重力変化の研究を目的とし,セールロンダーネ山地地域に位置するベルギーのPrincess Elisabeth Station(PES)で絶対重力測定を実施した.また,同地域のあすか基地近郊のシール岩にはJARE-26で設置された重力基準点(No.26-01)があるが,これまで絶対重力測定が実施されたことがなく,今回,初めて野外用の絶対重力計を用いた測定を実施した.以下では,これらの測定ならびに結果の概要について報告する.今回用いた絶対重力計はFG5#210およびA10#017の2台で,その他,dg/dzや重力点間の相対測定のためにラコスト重力計#805を使用した.南極への輸送は,機材,人員とも航空機(DROMLAN: Dronning Maud Land Air Network)を利用し,南アフリカのケープタウンからノボラザレフスカヤ基地経由でPESに移動した.PESでの滞在期間は,2013年11月29日から12月16日までの18日間である.PESでは,これまでにもベルギーの研究者が,居住区から数100m離れた露岩上のNorth Shelter(NS)と呼ばれる観測室内の重力点で,FG-5絶対重力計を用いた測定を実施している.今回の研究の一つの目的は,NSの同じ重力点で繰り返し測定を実施することで,長期的な重力変化の監視を行うことである.しかし,NSは大変狭く,落下槽の真空引き等は困難で,これらの調整作業やテスト測定はPES居住区内の一室で行った.また,同室内に仮の重力点を設置し,FG5とA10の測定値の直接比較を行った.その結果,高さの補正についてラコスト重力計によるdg/dzの実測値を用いた補正後,2μgal以内で一致する結果を得た.このことは,A10の測定値が良く校正されていることを示している.その後,テスト測定を継続中にFG-5の落下槽に不具合が生じ,そのまま回復せず,FG5での有効な測定は,仮の重力点での1400ドロップに留まった.このため,NSの測定はA10を用いて実施し,実測したdg/dz値-4.4529μgal/cmを用いた基準点上での重力値として982302155.21μgalを得た.これまでのNSでの測定値については,ベルギー側での詳細な補正パラメーター等を問い合わせ中で,現時点で正確な比較ができないが,数μgal以内では一致している模様である.従って,PESでの重力の時間変化はあったとしても小さいものと考えられる.シール岩での測定は12月5~6日に実施した.シール岩の重力基準点(No.26-01)は,常に風の強い頂上付近にあり,A10を用いてもその場での測定は大変困難である.そこで,今回はシール岩の取り付き付近に仮の重力点を設置しA10による絶対重力測定を行い,その後,No.26-01との間はラコスト重力計での結合を行った.このようにして得られたNo.26-01の重力値は982406.109mgalで,結合誤差を含めた精度は15μgal程度と推定される.これまでのNo.26-01での重力値は,JARE-26による982405.33mgal (国土地理院,2002)とJARE-27による982402.817mgal(福田,1986:昭和基地の絶対重力点改訂値を補正)があるが,今回の結果は,JARE-26の値に対して0.779mgal,JARE-27の値に対して3.292mgal,それぞれ大きい値となった.JARE-27の値との差が大きい理由として,JARE-27では2台のラコスト重力計を用いた測定を行っているが,その際,シール~昭和基地間の測定で2台の測定値に不一致があり,福田(1986)では,前後のドリフトの状況等から判断して一方の重力計だけに3.765mgalのトビの補正を行っていることによると考えられる.今回の結果からは,トビの補正を行った重力計が間違っていたものと推定されるが,仮にトビがもう一方の重力計に生じていたとすると,今回の測定値との差は0.5mgal程度となり,ラコスト重力計による重力結合の精度として妥当なものと思われる.No.26-01の重力値は,これまでに実施されたセールロンダーネ地域の重力測量の基準値として使用されており,今後,これらの値の改訂が必要である.文献:福田洋一(1986):南極資料,30,164-174.国土地理院(2002):国土地理院技術資料B1-No.32.