日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD22_1AM2] 重力・ジオイド

2014年5月1日(木) 11:00 〜 11:45 413 (4F)

コンビーナ:*今西 祐一(東京大学地震研究所)、松本 晃治(国立天文台RISE月惑星探査検討室)、座長:小澤 拓(防災科学技術研究所)、松尾 功二(京都大学 理学研究科)

11:15 〜 11:30

[SGD22-09] GRACE GFZ解を用いたグリーンランドの経年氷床質量変動の高分解能マッピング

*松尾 功二1福田 洋一1 (1.京都大学 理学研究科)

キーワード:衛星重力観測, グリーンランド, 氷床質量変動, 宇宙測地学, GRACE, ICESat

GRACE衛星は、2002年の打ち上げ以来、地球重力場の月毎の変動を計測している。データは2012年5月にRL04からRL05へと更新され、米国のテキサス大学宇宙研究センター(CSR)とジェット推進研究所(JPL)から、60次までの球面調和係数(ストークス係数)として公開されている。また独国の地球科学研究センター(GFZ)は、2013年12月にRL05aデータとして90次までのストークス係数を公開している。本研究は、GFZ RL05aデータ(90次)を用いて、その計測誤差を詳細に調べたうえ、高次項成分を可能な限り活用し、グリーンランドの経年的な氷床質量変動を従来よりも高い空間分解能でマッピングする。まず、計測誤差について調べる。Wahr et al. (2006)に倣い、GRACEデータの誤差分散行列から誤差の時空間変化を求める。RL05aデータの誤差の全球平均は、相当水厚変化で表現して約100cmであった。RL04データでは約300cmであったため、約3倍の精度向上と言える。その時間変化は、2003年1月から7月までは平均200cmであったが、2003年8月以降は平均100cmで安定している。2010年4月にGRACEの熱制御機器が故障したようだが(Tapley et al., 2013)、重力計測には特に影響はないようだ。誤差の空間分布は、赤道域で大きく(約130cm)、極域で小さい(約40cm)。これは、GRACEが極軌道上を周回しているため、データの取得密度が極域で密に、赤道域で疎になることに起因する(Matsuo & Heki, 2013)。また、赤道域は主に海洋域で占められるため、エイリアシング誤差を多く含むという要因もあるだろう。このように、極域における2003年8月以降のRL05aデータは、特に品質が高いことが分かる。続いて、グリーンランドの経年氷床質量変動を導く。グリーンランドでは、2002年頃から氷床が急速に消失しており、現在地球上で最も大規模な質量変動が起きている(Matsuo et al., 2013)。また、極域に位置しているため、他の地域と比べGRACEの計測誤差が低い。すなわち、シグナル対ノイズ比が特に高い地域といえる。従来GRACEデータは、高次項ノイズを低減させるために、60次以降を打ち切り、ガウシアンフィルター(Wahr et al., 1998)や相関フィルター(Svenson & Wahr, 2006)を施したのち、重力および質量変化へと変換されていた。そのため、空間分解能は良くて約300kmほどであった。一方で、精度が向上したRL05aデータは、より高次の項をより弱いフィルターを適用して使用することができる。そこで本研究では、ストークス係数を90次まで使用し、相関フィルターのみを適用し解析を行った。相関フィルターを施すことで、グリーンランド上での計測誤差は約40cmから約20cmまで減少させることができた。ストークス係数からグリーンランド上のシグナルを効率的に抽出するために、Haris and Simons (2012)によるspherical Slepian Basisを適用する。そうすることで、グリーンランドとは関連の低い他の成分の寄与を極力抑え、結果的にノイズを減少させることができる。そのようにして得た2003年9月から2009年10月までの質量変化の時系列から最小二乗法により1次変化(経年変化)を求める。グリーンランドの南東部と西部にて、明瞭な質量減少のシグナルが検出された。注目すべきは、グリーンランド西部の質量変動である。従来の60次まで用いた解析では中西部のJakobshavn氷河と北西部のQaanaaqにおける質量減少シグナルは分離できていなかったが、今回の90次まで用いた解析では綺麗に分離できている。この結果の妥当性を確認するために同時期に行われたICESat衛星による氷厚変動観測の結果と比較する。その結果、ストークス係数の90次まで展開したICESatの経年質量変化の分布図は、今回のGRACEの結果と見事に一致した。このように、GRACE RL05 GFZ解(90次)を用いることで、グリーンランドに対しては、従来と比べ空間分解能を約1.5倍(約300kmから約200km)向上させることができた。CSR解やJPL解ではストークス係数が60次までしか公開されていないように、元来60次以上の成分は利用が難しいと考えられてきた。しかしながら本研究は、計測誤差が低い極域を対象に、効率的にシグナルを抽出することで、GRACEデータを90次まで活用できることを明らかにした。グリーンランドと同じように極域に位置し強いシグナルを示すアラスカや南極半島に対しても、同様の手法を用いることで、従来よりも高分解能な質量変化の分布を導くことができるだろう。