18:15 〜 19:30
[SIT02-P01] 北海道で観測されるスラブ内地震の後続波と海洋性地殻の構造(その2)
キーワード:海洋性地殻, 後続波, guided wave, 太平洋スラブ
海洋プレートの沈み込み伴い地球内部に供給された水は,沈み込み帯における地震活動や島弧マグマ活動と密接に関係していると考えられている(e.g., Kirby et al., 1996; Nakajima et al., 2013).特にスラブ最上部に存在し,地震波速度の遅い海洋性地殻は含水鉱物として多量の水を保持しており,これらの鉱物の脱水反応や相転移の進行が海洋性地殻の地震波速度やスラブ内の水の分布に影響していると考えられている(e.g., Hacker et al., 2003).したがって,海洋性地殻の詳細な構造を明らかにすることは,沈み込み帯における水循環やスラブ内地震の発生メカニズムを理解する上で非常に重要である.
しかしながら,海洋性地殻の厚さは7 km程度であり,初動走時解析などの従来の手法では,地殻の構造不均質を詳細に推定することは困難である.一方で,スラブ内地震で観測される後続波(PS変換波やguided waveなど)は海洋性地殻やスラブマントルを長い距離伝播するため,スラブの構造不均質により敏感であることが知られている(e.g., Matsuzawa et al., 1986; Abers, 2005).
本研究では,北海道の日高山脈西部で観測される後続波(e.g., 清水・前田, 1980)を解析し,北海道東部下に沈み込む海洋性地殻の地震波速度を推定することを試みる.本研究で注目する後続波は.P波初動の2-10秒後にP波初動よりも大きな振幅を持つ波群として観測される.椎名・他 (2013, 地震学会)ではフォワードモデリングにより後続波の伝播過程を検討し,海洋性地殻内を伝播するguided P-waveであると再解釈した.本解析では彼らの解釈に基づき,guided P-waveの同定と走時の読み取りを行い,海洋性地殻のP波速度を推定した.加えて,guided P-waveが観測される観測点とイベントのペアに対して,初動S波の理論走時より数秒遅れてS波的な振動を持つ振幅の大きな波群が到着することが確認された.この波群(Xs phase)に対してもフォワードモデリングにより伝播過程を検討し,観測される走時などをguided P-waveと比較した結果,Xs phaseは海洋性地殻内をS波として伝播した波群,すなわちguided S-waveとして解釈できることがわかった.
P波とS波,それぞれに対応するguided waveは,地震波速度の遅い海洋性地殻内部を伝播し,海洋性地殻と日高山脈下でスラブ直上まで分布する低速度域(大陸地殻物質; Kita et al., 2010, 2012)の接触により地表へ放出されると考えられる.このため,同一観測点で観測されたguided waveの走時差をとることで,イベント間の海洋性地殻の地震波速度を見積もることができる.本研究では北海道日高山脈西部で観測された太平洋スラブ内地震の観測波形記録からguided waveの読み取りを行い,それぞれguided P-waveで117個,guided S-waveで56個の走時から海洋性地殻の地震波速度を推定した.その結果,北海道東部下に沈み込む海洋性地殻に対して,深さ50-100 km程度の範囲で,P波で6.8-7.7 km/s,S波で3.5-4.0 km/sの速度が得られた.深さ100 km以浅で得られたP波速度は東北地方下で推定された海洋性地殻のP波速度(Shiina et al., 2013)と同様に,MORBなどの含水鉱物から期待されるP波速度(約7.2 km/s)よりも小さい.このことは北海道東部下でも海洋性地殻内で流体の水と含水鉱物が共存して存在している可能性を示している. 一方で,海洋性地殻のS波速度に関しては,読み取った走時のデータ数も十分でなく,読み取りの精度もP波に比べて低いという問題がある.このため,今後,guided waveの読み取りを増やすなどして,S波速度の推定精度向上させる必要がある.
しかしながら,海洋性地殻の厚さは7 km程度であり,初動走時解析などの従来の手法では,地殻の構造不均質を詳細に推定することは困難である.一方で,スラブ内地震で観測される後続波(PS変換波やguided waveなど)は海洋性地殻やスラブマントルを長い距離伝播するため,スラブの構造不均質により敏感であることが知られている(e.g., Matsuzawa et al., 1986; Abers, 2005).
本研究では,北海道の日高山脈西部で観測される後続波(e.g., 清水・前田, 1980)を解析し,北海道東部下に沈み込む海洋性地殻の地震波速度を推定することを試みる.本研究で注目する後続波は.P波初動の2-10秒後にP波初動よりも大きな振幅を持つ波群として観測される.椎名・他 (2013, 地震学会)ではフォワードモデリングにより後続波の伝播過程を検討し,海洋性地殻内を伝播するguided P-waveであると再解釈した.本解析では彼らの解釈に基づき,guided P-waveの同定と走時の読み取りを行い,海洋性地殻のP波速度を推定した.加えて,guided P-waveが観測される観測点とイベントのペアに対して,初動S波の理論走時より数秒遅れてS波的な振動を持つ振幅の大きな波群が到着することが確認された.この波群(Xs phase)に対してもフォワードモデリングにより伝播過程を検討し,観測される走時などをguided P-waveと比較した結果,Xs phaseは海洋性地殻内をS波として伝播した波群,すなわちguided S-waveとして解釈できることがわかった.
P波とS波,それぞれに対応するguided waveは,地震波速度の遅い海洋性地殻内部を伝播し,海洋性地殻と日高山脈下でスラブ直上まで分布する低速度域(大陸地殻物質; Kita et al., 2010, 2012)の接触により地表へ放出されると考えられる.このため,同一観測点で観測されたguided waveの走時差をとることで,イベント間の海洋性地殻の地震波速度を見積もることができる.本研究では北海道日高山脈西部で観測された太平洋スラブ内地震の観測波形記録からguided waveの読み取りを行い,それぞれguided P-waveで117個,guided S-waveで56個の走時から海洋性地殻の地震波速度を推定した.その結果,北海道東部下に沈み込む海洋性地殻に対して,深さ50-100 km程度の範囲で,P波で6.8-7.7 km/s,S波で3.5-4.0 km/sの速度が得られた.深さ100 km以浅で得られたP波速度は東北地方下で推定された海洋性地殻のP波速度(Shiina et al., 2013)と同様に,MORBなどの含水鉱物から期待されるP波速度(約7.2 km/s)よりも小さい.このことは北海道東部下でも海洋性地殻内で流体の水と含水鉱物が共存して存在している可能性を示している. 一方で,海洋性地殻のS波速度に関しては,読み取った走時のデータ数も十分でなく,読み取りの精度もP波に比べて低いという問題がある.このため,今後,guided waveの読み取りを増やすなどして,S波速度の推定精度向上させる必要がある.