日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT41_28PM2] 海洋プレートの一生:誕生から解体,そして復活

2014年4月28日(月) 16:15 〜 18:00 314 (3F)

コンビーナ:*森下 知晃(金沢大学理工研究域自然システム学系)、山崎 俊嗣(東京大学大気海洋研究所)、島 伸和(神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、安間 了(筑波大学生命環境系)、熊谷 英憲(独立行政法人海洋研究開発機構)、中村 大輔(岡山大学)、座長:中村 大輔(岡山大学大学院自然科学研究科)、草野 有紀(金沢大学理工研究域自然システム学系)

16:30 〜 16:45

[SIT41-17] 伊豆―小笠原―マリアナ弧創成期マントルウェッジの温度組成構造および島弧発達過程

*金山 恭子1北村 啓太朗2海野 進1石塚 治3 (1.金沢大学理工学域、2.金沢大学大学院自然科学研究科、3.産業技術総合研究所地質情報研究部門)

キーワード:小笠原群島, 無人岩, マントルウェッジ, IBM弧, マントルポテンシャル温度, 沈み込み帯

プレート沈み込み帯の形成と島弧の発達過程を解明することは、大陸の形成をはじめとした地球の物質的進化を理解する上で重要である。本研究では、小笠原群島を含めた小笠原海嶺で生じたマグマの生成条件とその時空間変化を推定し、長期にわたって活動を継続する海洋性島弧の代表例であるIBM弧の沈み込み帯形成初期のマントルウェッジの温度組成構造を考察した。小笠原海嶺では、52Maに太平洋プレートが沈み込みを開始した直後、中央海嶺的なマグマ (forearc basalt: FAB) を発生し、遷移型島弧ソレアイトを経て、48Maには希土類元素に高度に枯渇し、SiO2に富んだ無人岩 (高Si無人岩) を発生、45Maに低枯渇でSiO2に比較的乏しい低Si無人岩に変化し、やがて通常の島弧ソレアイト・カルクアルカリ岩の活動へ収束した [1,2]。高Siおよび低Si無人岩はそれぞれ、ハルツバージャイト [3] およびレルゾライト [e.g. 4] の融解実験で生成されたメルトと近い主要元素組成を示す。著しく低い希土類元素濃度 (Yb>0.3 ppm) も、高Si無人岩が高度に枯渇したハルツバージャイトを起源物質とすることを示唆する。また、小笠原の無人岩に特徴的な高いZr/Ti比 (<0.04) は高いスラブメルト寄与率を反映している[2]。一方、高Si無人岩マグマに先行するFABはMORB起源マントルの10%以下の分別溶融で生成され、溶け残りかんらん岩は枯渇したレルゾライトである。このことは、高Si無人岩の高枯渇起源物質がFABの溶け残りかんらん岩ではないことを示す。未分化な無人岩マグマがハルツバージャイトと共存可能な温度圧力条件を推定したところ、高Si無人岩 (MgO=23、H2O=3.2 wt%) で1430℃、0.83-0.96GPa、低Si無人岩 (MgO=19、 H2O=2.6 wt%) で1380℃、0.86GPaであった [5]。算出した未分化FABおよび島弧ソレアイト・カルクアルカリ岩の生成条件をレルゾライト融解実験 [e.g.4] と比較することによって推定した結果、前者は無水で1350℃程度、1.3-1.7GPa、後者は0-0.5 %の水の存在下で1300-1350℃、1-1.2GPaと推定された。初生マグマのMgO量からマントルポテンシャル温度 (Tp) を計算した。FABや島弧ソレアイト・カルクアルカリ岩のTpは約1400℃で、中央海嶺下マントルと同程度であるのに対し、高Si無人岩は1500℃、低Si無人岩は1450℃で中央海嶺下よりも高温であり、特に高Si無人岩はプルーム起源マントルと同程度である [6]。これは、西フィリピン海盆で高Si無人岩と同時代 (51-45Ma) にプルーム起源の火成活動が起こったことと整合的である [7]。高枯渇の高Si無人岩起源物質は、プルーム起源火成活動の溶け残りである可能性がある。以上のことから、小笠原地域におけるIBM弧形成初期のマントルウェッジは次のような温度組成変化を経験したと考えられる。52Maに古くて高密度の太平洋プレートが若くて軽いフィリピン海プレートに対して沈み始めると、マントル上昇流が発生してフィリピン海プレート東縁部で海洋底拡大が起こり、枯渇度の低いマントルの部分融解でFABが生成された。48Maになると、深部に存在したプルームの溶け残りマントルが約1GPaまで上昇し、スラブメルトを伴った含水融解を起こして高Si無人岩マグマを生成した。45Ma頃には、沈み込みの進行に伴いマントル浅部が冷却され、さらにマントルウェッジの対流が始まった。その結果、マントルウェッジの物質が低枯渇マントルに入れ替わることによって、遷移的な低Si無人岩を経て島弧ソレアイト・カルクアルカリマグマの活動に移り変わり、定常的な島弧―海溝系へと進化した。[1] Ishizuka et al. (2011) EPSL, 306, 229-240. [2] Kanayama et al. (2012) Island Arc, 21, 288-316. [3] Falloon and Danyushevsky (2000) J. Petrol., 41, 257-283. [4] Hirose and Kawamoto (1995) EPSL, 133, 463-473. [5] Kitamura et al. (2014) JPGU. [6] Herzberg and Gazel (2009) Nature, 458, 619-623. [7] Ishizuka et al. (2013) Geology, 41, 1011-1014.