日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP46_28PM1] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 414 (4F)

コンビーナ:*河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)、石井 和彦(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻)、座長:河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)、中野 伸彦(九州大学大学院比較社会文化研究院地球変動講座)

15:15 〜 15:30

[SMP46-08] 天然で変形したオリビンの微細組織観察から探る超低歪速度効果の検証

*山本 貴史1安東 淳一1大藤 弘明2森下 知晃3富岡 尚敬4 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻、2.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、3.金沢大学理工学域自然システム学類、4.岡山大学地球物質科学研究センター)

キーワード:Olivine, Cottrell atmosphere, Dislocation creep

今後上部マントルのダイナミクスを理解する上で重要になると考えられる事は、オリビン((Mg, Fe)2SiO4)の変形特性に与える超低歪速度の効果の評価と解明である。金属学では超低歪速度は、コットレル雰囲気を通じて材料強度に強い影響を与える事が知られている。Kitamura et al. (1986) とAndo et al. (2001) は、マントル起源の変形したオリビンを観察し、転位線に沿って濃集するFeの存在を報告している。彼らは、このFeの濃集の成因をコットレル雰囲気と解釈しているが、転位線に沿う特定元素の濃集は、変形が終了した後のパイプ拡散によっても形成され得る。従って、上部マントルにおいてコットレル雰囲気が発現しているかどうかを明らかにする為には、より詳細でかつ系統的な微細組織観察が必要となる。そこで本研究では、マントル起源の変形したオリビン中に発達する転位を観察し、1)Feの濃集が普遍的に認められるか。そしてFeの濃集が認められた場合、2)その濃集はどのような変形条件でどのようなメカニズムで形成されたのか、という事の解明を目的に研究をすすめた。観察に用いた試料は、ゼノリスタイプ(佐賀県高島、福岡県黒瀬、秋田県目潟、ハワイオアフ島ソルトレイク)とアルパインタイプ(幌満、ウエンザル)のカンラン岩である。これらを対象として、主に電子顕微鏡を用いた微細組織観察と化学組成分析を行った。観察及び分析結果の概要を以下にまとめる。ゼノリスタイプのカンラン岩は、等粒状組織もしくは非等粒状組織を示す。オリビンは比較的粗粒(数百μm~数mm)で、粒界は直線的かつ三重点も一般的に観察される。粒内にはキンクバンド様の亜結晶粒界が発達しており、波動消光はほとんど認められない。一方、アルパインタイプのカンラン岩は、比較的細粒(数十~数百μm)なオリビンから構成されるポーフィロクラスティック組織を呈しており、粒界は房状もしくはアメーバ状である。また波動消光が顕著に認められる。この様な微細組織の特徴と、転位のすべり系及び各種地質差応力計(転位密度、亜結晶粒径、結晶粒径)の結果から、各カンラン岩が経た変形履歴を以下の様に示唆された。ゼノリスタイプのカンラン岩は、約10MPaの差応力による定常クリープを経験した後に、静的回復作用を受け、更にその後、約50MPaのパルス的な付加応力を受けた可能性が高い。一方アルパインタイプのカンラン岩の、ホロマンに関しては、低差応力場(約30MPa)から高差応力場(約100MPa)への変化が起こった事が示される。ウエンザルに関しては、亜結晶回転による動的再結晶の起こるような高温状態から、バルジング再結晶の起こる低温状態への変化があったと考えられる。ATEMを用いた転位線近傍における化学組成分析の結果からは、全ての試料においてFeの濃集が生じている事が明らかとなった(図1)。このFeの濃集は、以下の理由によりコットレル雰囲気に起因すると結論付けた。パイプ拡散によるオリビン中の転位線への元素の濃集では、拡散起源流体の化学組成に依存してFeだけでなくMnやNiと言った複数の元素の濃集も同時に報告されている(例えばPlumper et al., 2012)。更に流体の経路である粒界に沿ってFeが濃集する可能性も考えられるが、本研究で用いた試料中にはこのような元素の濃集は全く認められなかった。得られた結果の考察を以下にまとめる。ゼノリスタイプの試料の変形履歴は、マグマに取り込まれる際のアニーリングを受けた後、地表付近で短期間の付加応力を受けた可能性を示している。しかしこの付加応力は亜結晶粒界の生成が起こるよりもさらに短期間のパルス的な応力である。化学組成分析から、両試料において亜結晶粒界にFeが濃集している事が確認できていおり、ゼノリスタイプの試料中のFeの濃集が付加的な応力下で形成された可能性は否定できる。一方アルパインタイプの試料の変形履歴は、マントルからの上昇過程における流動変形の情報を有している。以上の理由から、今回認められたFeの濃集は、両タイプともマントルにおける流動条件下において形成されたと考えられる。従って、コットレル雰囲気に起因したオリビン粒子中の転位へのFeの濃集は上部マントルにおいて普遍的な現象であると結論付けた。本研究結果は現在行われている変形実験においても、低歪速度環境でのコットレル雰囲気の形成に伴うオリビンの変形特性の変化を考慮する必要がある事を強く示唆している。Ando et al. (2001) Nature, 414, 893; Kitamura et al. (1986) Proc.Japan Acad., 62, 149; Plumper et al. (2012) Contrib. Mineral. Petrol., 163, 701.