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[SMP47-17] 炭酸カルシウムの準安定相ファーテライトの圧力誘起相転移
キーワード:ファーテライト, 相転移, 高圧
1. はじめに 炭酸カルシウムは地球表層にありふれた鉱物の一つであり、また炭素循環において重要な物質である。カルサイトおよびアラゴナイトに関しては、高圧下の挙動について多くの研究が報告されている。カルサイトは1.5 GPa以上でカルサイトⅡ、2.0 GPa以上でカルサイトⅢへと相転移し、アラゴナイトは約40 GPaまで安定に存在することが知られている。炭酸カルシウムの準安定相であるファーテライトは、炭酸カルシウム結晶の形成初期に発生し、より安定なカルサイトおよびアラゴナイトに相転移することが知られている。ファーテライトの高圧下での挙動は未解明であり、準安定相の圧力応答は安定相とは異なる挙動を示すことが期待される。そこで本研究では、ファーテライトの高圧下X線その場観察を行った。2. 実験方法 実験には合成したファーテライトを用いた。60 mM CaCl2水溶液および60 mM NaHCO3水溶液を30℃に保った状態で混合し、10分間攪拌した。その後、吸引濾過、純水による洗浄の後に乾燥させることで白色の粉末試料を得た。得られた試料は粉末X線回折(XRD)により、ファーテライト単相であることを確認した。 高圧発生にはダイヤモンドアンビルセルを用いた。静水圧性を保つために、圧媒体としてヘリウムまたはメタノール・エタノール混合溶液を、試料とともに封入した。圧力測定にはルビー蛍光法を用いた。室温下で、0~14 GPaの圧力範囲で段階的に圧力を変化させ、各圧力においてXRD測定を行った。XRD測定には、KEKのPF BL18Cにて放射光X線を用いた。3. 結果と考察 得られたXRDパターンから、ファーテライトは4.7 GPa以上の圧力で、ピークの分裂およびカルサイトⅢへ相転移することが確認された。Le Bail et al. (2011) のファーテライトの結晶構造モデルを用いて格子定数を計算すると、ピークの分裂とともに格子定数の飛びが見られ、対称性の崩れたファーテライト(ファーテライトⅡと呼ぶ)へ相転移したと考えられる。さらに加圧すると、ファーテライトⅡが減少するに伴いカルサイトⅢが増加することから、カルサイトⅢはファーテライトⅡから相転移していると考えられる。また、12.9 GPa以上の圧力で、既存の炭酸カルシウム多形では説明できないスポット状の回折が確認できた。このことから、ファーテライトⅡの一部はカルサイトⅢに相転移せず、12.9 GPaで粗粒の結晶(ファーテライトⅢと呼ぶ)へ相転移したと考えられる。また、常圧へ圧力を下げると、ファーテライトおよびカルサイトが見られたことから、ファーテライトからファーテライトⅡおよびファーテライトⅡからファーテライトⅢは可逆の相転移、ファーテライトⅡからカルサイトⅢへは不可逆の相転移であると考えられる。本研究により、ファーテライトの常温での加圧において、これまで知られていなかった炭酸カルシウムの高圧相(ファーテライトⅡおよびファーテライトⅢ)が初めて見出された。