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[SMP47-18] 室温におけるSiO2ガラスの巨大塑性変形
キーワード:SiO2ガラス, 塑性変形, 永久高密度化, ネットワーク構造
共有結合性の固体は、硬い反面、壊れやすい性質を持つことが知られている。また、ガラスは長距離秩序を持たないために、結晶の場合のような転位を介した塑性変形を起こすことができない。しかし、高い共有結合性を持つSiO2ガラスが、加圧処理により最大20%程度まで高密度化されることは古くから知られており(永久高密度化)、これは広義の塑性変形と言える。この永久高密度化は、SiO4四面体の構成するネットワーク構造の繋ぎ換えによる相転移現象として解釈できる[e.g., Wakabayashi et al., 2011]。最近、加圧軸に垂直な方向(動径方向)からのX線回折により、一軸圧縮下におけるSiO2ガラスの第一ピークに対応する中距離構造の偏差歪みが測定された[Sato et al., 2013]。その結果、SiO2ガラスの中距離構造には、極めて大きな偏差歪みが観察され、減圧後も大きな偏差歪みが、ネットワーク構造の異方的な繋ぎ換えによって残留することが明らかになった。本研究では、SiO2ガラスが密度変化を伴わない狭義の塑性変形を起こすかどうかを明らかにするために、一軸圧縮下におけるSiO2ガラスのバルク試料の形状の変化を測定した。さらに、偏差歪みが中距離構造のみに残留するのか、あるいは短距離構造にも残留するのかどうかを明らかにするため、回収試料に対して、50 keVの単色X線を動径方向から入射して、広いQ領域で回折測定を行った。加圧にはダイヤモンドアンビル装置を用いた。適当な圧力で試料が上下のアンビルに挟まれて一軸圧縮状態になるように、円盤状の出発試料の厚みを調整した。Arガスを圧力媒体として、20 GPa(Run 1)、 12 GPa(Run 2)、6 GPa(Run 3)までの圧力領域で、3回の実験を実施した。試料の形状の変化は、光学顕微鏡を用いて測定した。X線回折測定には、PF AR-NE1Aの設備を利用した。なお、実験は全て室温で行われた。Run 1およびRun 2では、6-8 GPa程度の圧力で一軸圧縮状態となった後、割れることなく試料の径が著しく拡大し、20 GPaにおいて10%程度もの径の拡大が観察された。測定された試料の巨視的な偏差歪みは、先行研究[Sato et al., 2013]による微視的な偏差歪みに対して一桁程度大きく、SiO2ガラスが室温において塑性変形を起こしたことが示唆される。また、X線回折の結果から、回収試料は、いずれも最大に高密度化された状態にあること(=約20%の高密度化)、中距離のネットワーク構造のみに偏差歪みを持っており、その大きさは先行研究[Sato et al., 2013]と整合的であることが明らかになった。一方、Run 3では、2-3 GPa程度の圧力で一軸圧縮状態となったが、6 GPaから回収された試料は塑性変形を起こしておらず、測定された回折パターンも通常のガラスと同じであった。静水圧条件では、高密度化は9 GPa程度から起きることが知られており[e.g., Wakabayashi et al., 2011]、高密度化されると塑性変形を起こし易くなるものと考えられる。D. Wakabayashi et al., Phys. Rev. B 84, 144103 (2011).T. Sato et al., J. Appl. Phys. 114, 103509 (2013).