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[SSS26-06] 濃尾地震断層域におけるレシーバ関数解析(その2)
キーワード:地殻, マントル, レシーバ関数, 濃尾地震
1) はじめに内陸地震の発生は,日本列島域周囲の海洋プレートの沈み込みなど,プレート運動に伴って生ずる歪が島弧地殻内部に蓄積し,それに伴い特定の断層への応力集中がおこり破壊に至るという,一連のプロセスから成ると考えられる。その物理メカニズムを理解するためには,島弧地殻内の不均質構造を解明するとともに,プレート境界から加わる歪・応力がその不均質構造や内部変形によって局在化していく過程を明らかにしなければならない。現在実施されている“地震及び火山噴火予知のための観測研究計画“においては, 2009 年から5ヶ年計画で,全国の大学・関係機関と共同で,1891年に発生した国内最大規模の内陸地震である濃尾地震の断層域を研究対象として,地震観測,地球電磁気観測,GPS 観測等による地球物理的総合観測を実施している.この断層は,新潟-神戸歪集中帯の中に位置しており,断層への歪・応力集中の様子を調べるのに適した断層である。これまでにおこなってきた跡津川断層などにおける合同観測の研究から,内陸地震の発生に関しては地表近傍の構造だけでなく,下部地殻の構造や地殻の下に沈み込んでいる海洋プレートから供給される流体の影響が大きいことがわかってきた。濃尾断層域でおこなっている総合観測の一環である自然地震のテレメータ観測のデータを用いた広域トモグラフィ解析によっても,濃尾断層域下のフィリピン海プレートから上部地殻へとつながる低速度域が検出された。この低速度域は,東西方向においては濃尾地震断層の西側の琵琶湖の下に存在するフィリピン海プレートから,下部地殻内部を通り断層域直下にまで伸びており,また断層の走向方向においても,1891年の濃尾地震の断層の北部の下部地殻に存在していることがわかった。本研究では,この領域においてレシーバ関数解析をおこなった。2) データ 震源は,2002年8月から2011年3月10日までの震央距離30度から90度の遠地地震を用いた。観測点は,本計画で設置した臨時観測網のデータに加え,防災科研のHi-netのデータを使用させていただいた。3) 結果 濃尾地震断層域でのレシーバ関数の明瞭なイメージを得ることができた。この地域では,2012年に人工地震を用いた構造探査が実施されており,2013年の日本地震学会・秋季大会では,その測線に沿った構造において,構造探査の結果とレシーバ関数解析で得られた結果とを比較検討した結果を発表した。今回は,濃尾地震断層域を取り巻く,200㎞×150㎞の広い領域でレシーバ関数解析の構造を切りだして,この地域の地球科学的特徴を抽出することを試みた。 西南日本に沈み込むフィリピン海プレートは,これまでに地域的に大きく湾曲していることが示されてきた。ここでは,東西方向,南北方向で断面図を作成し,地殻及び最上部マントルの構造を推定した。東経137.5度の南北断面では,沈み込むフィリピン海プレートの上面と海洋地殻のモホ面と推定される,北に向かって傾斜するレシーバ関数の負と正の明瞭な境界面が見られた。その深さは,浅部から80㎞程度までたどることができる。また,137度の南北断面でも,沈み込むフィリピン海プレートの上面と海洋地殻のモホ面と推定される負と正の明瞭な境界面が見られるが,60㎞より深部では不明瞭となる。その西側の伊勢湾から若狭湾にかけての領域では,これまでの研究から沈み込むフィリピン海プレートが浅くなっていることが示されていたが,今回のレシーバ関数解析でも,沈み込む海洋地殻のモホ面と思われる境界面からも,浅いフィリピン海プレートの形状を裏付けることができた。このように,合同観測による空間的高密度の観測網を用いたレシーバ関数解析を行うことによって,より明瞭な地殻および上部マントルのイメージを描き出すことが可能となった。