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[SSS27-01] イメージ領域地震波干渉法によるタイムラプス調査の可能性
キーワード:地震波干渉法, タイムラプス, リバースタイムマイグレーション
(1) イメージ領域の地震波干渉法地震波干渉法(seismic interferometry, SI)は、異なる受振点の観測波形を相互相関処理して新たな地震波形記録を合成する、速度など媒質の情報とは独立したデータ領域における処理であるというのが一般的な理解である(データ領域SI)。この場合、地下構造イメージングのためには、SIにより合成された仮想震源記録に対してその後の処理が必要である。一方、速度情報に基づくモデリングによって観測波形記録から外挿された波動場を相関処理して構造を直接イメージングするのは、イメージ領域において地震波干渉法を適用することと理解できる(イメージ領域SI)。このようにイメージ領域SIには、観測波形記録に加えて媒質の情報(速度モデル)が必要となる。しかし、速度モデルを如何に準備するかはさておき、構造のイメージングまで含めて考えれば、イメージ領域SIとデータ領域SIでは必要な情報は同じである。反射法地震探査におけるリバースタイムマイグレーション(reverse time migration, RTM)の原理は、発震点から震源波形を順伝播させた波動場と受振点から観測波形を逆伝播させた波動場について、同一時刻における両者の相関結果を時間積分することで地下の反射面や散乱体を結像させることである(イメージングコンディション)。このRTMにSIの概念を導入すると、パッシブな観測波形記録について信号を含む任意の時間窓で記録を切り出し、仮想発震点となる受振点から観測波形記録を順伝播させ受振点側からは観測波形記録を逆伝播させることで、イメージングコンディションを満足する点では反射面や散乱体が結像する。パッシブな観測の場合、受振点毎に波動場は独立ではないため、同時に取得された一組の観測記録に対する順伝播と逆伝播は、全受振点から同時にそれぞれ一回限り行えばよい。データ領域SIに基づくイメージングの場合、観測記録毎に相互相関処理を行った後に全てを加算し、各受振点位置で合成された仮想震源記録はそれぞれ独立なものとして利用する必要があるので、最終的に一度きりのRTMであるものの仮想震源の数だけ順伝播と逆伝播を繰り返す必要がある。従って、同じ速度モデルとRTMアルゴリズムを用いる想定では、条件次第ではイメージ領域SIの方が全体の計算コストを抑えることができる。その他の特徴的な違いは、データ領域SIでは干渉処理によって観測点に情報が集約されるのに対して、イメージ領域SIでは波動場外挿によって情報が分散された後にモデル上で干渉処理が行われる。この違いによる効果については今後検討したい。(2) パッシブなタイムラプス調査への適用可能性近年、各方面で常設型観測機器等を用いたパッシブな地震観測が行われつつある。また、タイムラプス調査では、自然または人為的な要因で地下の一部が変化するかしないかの把握が目的である。制御震源による調査では発震点と受振点ともに高い再現性を保持可能だが、パッシブな観測では震源の分布やメカニズムについて再現性が全く保証されない。本研究では、イメージ領域SIを用いて、パッシブなタイムラプス調査による構造イメージの再現性と地中で生じる物性変化の抽出可能性について、数値シミュレーションによる検討を行った。今回は第一段階として、音響場において地中の震源は全て同じメカニズムであると単純な仮定を設けた。震源分布と媒質について一方または両方に変化を与えたモデルに対する観測波形合成とイメージングを行い、いずれにも変化を与えないモデルから得た結果との相違について、複数の再現性指標を用いて評価を行った。修正を加えたSEG/EAGEのoverthrustモデル(15km×5km)を用いて、上述の各モデルについて地中にランダムに配置した震源(P波震源、10Hzリッカーウェーブレット)に対する151点の地表受振点における観測波形記録を128組ずつ合成し、RTMにはスムージングした速度モデルを共通して用いた。媒質の変化として、モデル中央付近の背斜部に鉛直方向には波長以下のサイズである楕円状(1km×0.1km)に10%速度低下を与えた。シミュレーション結果からは、解釈に足る大局的な構造は再現されたものの、再現性指標を用いて評価すると、本手法によって媒質変化を抽出できる可能性がある一方で、震源分布の違いによる変化も無視できないほど大きいことがわかった。媒質の変化のみを捉えるには、それ以外の影響を取り除く手段を講じる必要がありそうだ。また、現実の問題では、震源分布以外に、メカニズムの違い、弾性体の効果、ノイズの存在などの影響で、なお困難を伴うことが予想される。