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[SSS27-10] 深さ依存速度構造下の大規模地震波伝播数値シミュレーションのための曲線座標系差分法
キーワード:地震波伝播, シミュレーション, 差分法, 曲線座標系
深さに応じてグリッドサイズが滑らかに増大するような曲線座標系を用いた差分法に基づく地震動シミュレーションを提案する.地震波伝播シミュレーションに広く用いられている差分法は,空間を一波長あたり6?10格子程度以上に細かく分割し,弾性体もしくは粘弾性体の運動方程式を離散化して陽的に解く方法である.この方法は簡便であり,かつ大規模な並列シミュレーションにも非常に向いているが,数十?数百kmスケールの計算においては,深さに依存する地震波速度構造のために波長帯域が広く,計算領域全体を一様な格子間隔で覆うのはきわめて不経済である.浅部の堆積層はきわめて細かい空間格子を要求するが,そのような格子では深部の高速度領域で安定条件を満たすため非常に細かい時間刻みを取らざるを得ない.この問題に対処するため,浅い部分と深い部分で異なる格子サイズを用い,それらを空間補間で繋ぐ不連続格子法 (Aoi and Fujiwara, 1999; Lee et al., 2008) が用いられてきた.しかし,この方法では急激に格子サイズが変わることに伴う数値不安定の可能性が指摘されている(Kristek and Moczo, 2010).Pitarka (1999) やMoczo (1989)は差分公式を改変することで深さ方向にのみ格子サイズを柔軟に変更可能な手法を提案した.しかし,座標系の直交性を維持しつつ格子形状を変更するには限界がある.本研究で報告する曲線座標系では,平均的な地震波速度の増大に合わせてすべての方向の格子間隔が滑らかに大きくすることができるため,一波長あたりの格子数を一定程度に保つことで経済的に大規模なシミュレーションが可能になる. 本研究で採用した曲線座標系によるシミュレーションでは,数値微分ならびに積分を行う座標系を任意の計算座標系に変換しつつ,速度・応力等の成分は物理空間のカーテシアン座標系のものをそのまま用いる.計算座標系で空間等間隔刻みの差分法を適用することで,実空間で複雑な座標系形状であっても簡便な差分法で計算が可能となる.従来この手法は複雑な地形形状に沿った座標系を用いるために使われてきた (Hestholm, 1999) が,本研究ではこれを深部と浅部の間の速度コントラストを吸収するために利用する.一方,地表あるいは海底の境界は階段形状で近似した.近年のスタガードグリッド差分法の関する研究 (e.g., Nakamura et al., 2012) から,解像度が十分細かけれ二次の差分法と適切な媒質平均化を用いることで階段形状近似によって境界条件がよく再現できることが明らかにされている.曲線座標系は任意の座標系形状に適用可能であるが,本研究では深さ方向の計算座標値にのみ依存し,深さとともに滑らかに増大する関数を通じて座標系を定義する.このような1変数関数を用いることで,運動方程式の座標変換のために必要となる係数ならびにヤコビアンを簡略化し,曲線座標系の欠点である計算量と所要メモリ量の増大を最小限にすることができる.また,計算座標系における水平面は物理空間においても水平面になり,対応関係が明確であるという特徴もある.一方この座標系は非直交座標系であり,座標変換された運動方程式はカーテシアン座標系よりも多くの方向への空間微分を必要とする.そこで,回転食い違い格子座標系 (RSG; Saenger et al., 2000) を採用した.この座標系では応力テンソルと速度ベクトルの各成分がそれぞれ同じ場所に配置されるため,いかなる方向の微分についても中心差分を維持することが可能である. 具体的な座標系として,鉛直方向に相当する座標軸がバタワースフィルタの伝達関数形状に比例するような形状関数を試験関数として検討した.この座標系は特徴的なカットオフ深さを持ち,それ以上の深さでグリッド間隔が深さに比例して増大する一方,浅い側はカーテシアン座標系に漸近するという特徴をもつ.したがって,浅い側を一定深度まで十分に細かいカーテシアン座標系で解き,一定深度より深い部分は深さとともにほぼ線形にグリッドを粗くするということが特段の接続操作なしに可能となった.予備的な二次元SHならびにP-SVシミュレーションの結果,浅い部分で急峻に座標軸が変化し,最大10倍のグリッドサイズ比があるような構造下でも安定かつ高精度に地震動が計算できることが確認された.本研究の座標系はすべて解析的な関数形状で与えられるため,座標変換に伴う変換係数の数値誤差の影響は非常に小さく,かつ高速・省メモリの評価が可能である.今後この方法を三次元に拡張することによって,浅部低速度から深部構造までをより適切にカバーした広帯域シミュレーションが実現可能になると期待される.