日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS28_2AM1] リアルタイム地震情報システムの発展と利活用

2014年5月2日(金) 10:00 〜 10:45 312 (3F)

コンビーナ:*中村 雅基(気象庁)、山田 真澄(京都大学防災研究所)、干場 充之(気象研究所)、鶴岡 弘(東京大学地震研究所)、青井 真(独立行政法人防災科学技術研究所)、山本 俊六(鉄道総合技術研究所)、荒谷 博(気象庁地震火山部管理課)、座長:中村 雅基(気象庁)

10:00 〜 10:15

[SSS28-01] 気象庁における緊急地震速報関連の最近の技術的動向とビジョン

*中村 雅基1小寺 祐貴1溜渕 功史1相澤 幸治1小上 慶恵1平野 和幸1山田 安之1崎原 裕和1浦谷 純平1森本雅彦 森本雅彦1 (1.気象庁)

キーワード:緊急地震速報, 長周期地震動, 気象庁, 震度, 長周期地震動階級, 震源決定

気象庁における緊急地震速報の精度向上、情報発表の迅速化に向けた取り組みについては、これまでも報告しているところであるが(詳細は気象庁HP審議会・検討会等のページ参照)、最近の動向について報告するとともに、今後の予定について述べたい。 気象庁は、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に対して、緊急地震速報(警報)を、最初の地震波の検知から8.6秒後に発表した。緊急地震速報(警報)を発表した全ての地域に対して主要動の到達前に発表した。しかし、この時点で推定したMは7.2であったため、震度予測が過小となった。緊急地震速報は、第15報(最終報)まで発表し、第14報以降においてM8.1を推定、最大震度6弱を予測、東北地方から関東地方や北陸地方の広い範囲に震度4以上を予測した。しかし、緊急地震速報(警報)の発表・更新は、地震波検知から60秒後までとして運用しているため、更新報を発表することはなく、例えば関東地方を対象とする緊急地震速報(警報)の発表をしていない。また、現在の緊急地震速報では、揺れの振幅予測式の距離減衰補正に用いる断層までの最短距離として、震源を中心とした推定Mに応じた半径の球面上からの距離を採用している。これが一因となって、この巨大地震の断層面の広がりを正しく評価できず、適切な震度予測ができなかった。さらに、この地震の発生後、全国の地震活動が活発化し、時空間的に近接して複数の地震が発生した場合などに適切な緊急地震速報が発表できない事例が多数あった。 また、平成25年8月8日16 時56 分頃、和歌山県北部を震源とするM2.3の地震に際し、近畿地方を中心に関東から九州までの34都府県を対象とする緊急地震速報(警報)を発表したが、震度1以上は観測されなかった。過大な緊急地震速報を発表した原因は、和歌山県北部の地震により震源近傍で地震波を検知したのとほぼ同じタイミングで、震源から離れた東南海海底地震計で大きな振幅を観測したとのデータ(システムの不具合による誤ったもの)が得られ、これらを同一の地震によるものとして処理した結果、M7.8の地震が発生したと推定したためであった。この事態を受けて気象庁では、原因となった海底地震計システムの緊急地震速報への利用を約2ヵ月間停止し、ハードウェア・ソフトウェアの改修を行い、慎重に動作確認を行ったのち緊急地震速報への利用を再開した。しかし、全ての機器故障を想定したシステムを構築することは困難であり、このケースの次善策は同一の地震と誤って判断しないようにすることだと考えられる。 これらに対処するため、気象庁では、①震源断層の広がりの過小評価(Mの飽和)による震度の過小予測の克服と、②ほぼ同時に発生する地震を適切に分離できないことによる不適切な情報発表対策を主要課題としてとらえ、これまでも対策を講じてきており報告しているところであるが、処理システムの更新を機に緊急地震速報処理のより一層の高度化を予定している。具体的には、②の対策として、従来型の震源要素に基づく予測の高度化として溜渕・他(2013, 2014)によるパーティクルフィルタを用いた手法であり、①と②の対策として、実時間震度モニタ型予測と従来型の震源要素に基づく予測のハイブリッド化(小寺・他, 2014)である。前者は、尤度関数として、各観測点における地震波検知時刻だけでなく、最大振幅、B-Δ法、主成分分析法の処理結果、未着情報を用いており、従来の緊急地震速報処理の迅速性と同時多発地震識別におけるロバスト性の両方を兼ね備えた震源推定手法である。後者の実時間震度モニタ型予測は、Hoshiba (2013)の簡易版で、観測された大きな震度をもたらした波動場は四方八方に伝播すると仮定し、予測対象観測点周辺半径Xkm以内の観測点における最大観測震度を予測震度とするものであり、これを従来型の震源要素に基づく手法とハイブリッド化する手法である。 また、気象庁では、平成25年3月から長周期地震動に関する観測情報の発表を、気象庁HPを通じて試行的に開始した(相澤・他,2014)。現在、長周期地震動版の緊急地震速報である予測情報の発表について技術的検討を行っているところであり、現行の緊急地震速報と同様の距離減衰式を用いた手法をひとつの候補に考え、評価を行っている(小上・他, 2014)。予測情報の発表については、2~3年後程度を目途に試行的運用を開始したいと考えている(詳細は気象庁HP審議会・検討会等のページ参照)。引用文献:相澤・他, 2014, 本大会予稿集. Hoshiba, 2013, DOI: 10.1002/jgrb.50119.小寺・他, 2014, 本大会予稿集. 小上・他, 2014, 本大会予稿集. 溜渕・他, 2013, 地震学会予稿集秋季大会. 溜渕・他, 2014, 地震2投稿中.