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[SSS28-04] 人間以上に高精度の地震波自動読み取り システムの開発(その6)
キーワード:震源決定, P波、S波自動読み取り, 評価関数, センブランス, 卓越周波数, 人間と同等
1.はじめに 海底地震計の整備や,安価な地震観測装置の開発に伴い,P波,S波到着時刻の読み取り量が増え,オペレータによる読み取りは,限界を超えつつある.我々は,到着時刻読み取りのための評価関数を定義し,地震の専門家のノウハウを組み込んだP波,S波自動読み取りシステムを開発した.また,P波,S波到着時刻に対応する時刻で,振幅が大きくなる疑似波形を作成し,センブランス解析法を応用した震源決定手法を開発することにより,複数の地震が同時発生する場合にも対応できることを示した.本システムは日本の全リアルタイム地震観測データやローカル観測網を用いた震源決定に利用されるようになりつつある.また,臨時地震観測データを用いた自動震源決定にも適用されている.本発表では,S波読み取りの高精度化のための開発を行ったので報告する.2.自動処理システムの改良 S波到着時刻の読み取りが,オペレータに比べ系統的に遅いことが示された(中山他,2013).調べた結果,rotation成分を用いる限り,系統的遅れを解消することができなかった.そこで,NS成分と,EW成分のそれぞれの絶対値の和を用いるようにした.一般に,S波が到来すると,卓越周波数が低くなることが知られている.そこで,速度と加速度の振幅比を用いて,卓越周波数の時間変化を求めるようにした.水平動成分について,次式のように,差分と,2回差分, V(t)=u(t)-u(t-Δt) A(t)=u(t)-2u(t-Δt)+u(t+2Δt) を計算し,その絶対値の0.1秒移動平均を求め,両者の比に定数を掛けることにより,卓越周波数の移動平均を求めるようにした.ここに,U(t)は観測波形,Δtは0.02秒とした.この計算方法は,緊急地震速報でマグニチュードの決定に使われているτcの計算方法に類似している.式(1),(2)は,差分と2階差分であるため,長周期成分の振幅は小さくなり,STS等の長周期地震計によるデータでも,脈動の影響を取り除いた卓越周波数の時間変化が計算できる.P波,S波到着時刻読み取りでは,評価関数に,上記から計算される卓越周波数の時間変化を組み込むようにした.この他,波形の自己相関,振動継続時間,コーダ波振幅の減衰特性等のパラメータを抽出し,地震とノイズとの識別機能を強化した.3. 結果 1)卓越周波数が顕著に小さくなる時刻と,S波到来時が対応しており,卓越周波数の時間変化の指標が,S波読み取り精度向上に有効であることが示された.P波到来時にも,卓越周波数は小さくなる場合が多いが,逆に大きくなる場合もある.2)日本全体の2011年9月3日の連続波形データを用いて,自動処理による解析結果と一元化震源によるそれとを比較した.気象庁一元化震源による震源決定個数はそれぞれ588個,自動震源決定によるそれは1523個で,自動震源決定できた地震数は,一元化の2.6倍であった.P波,S波読み取り数は,それぞれ,35366, 30164で,これは,一元化の2.1倍,1.6倍であった.3)オペレータによる読み取りと,自動処理によるそれとの時間差の絶対値の平均値は,それぞれ,0.06秒,0.13秒である.この値は,人間と人間との読み取り値の差に近い.4)到着時刻の読み取りが正しければ,近傍に位置する2観測点の,P波,S波到着時刻から計算される発震時刻の差は,地下構造の違いの影響を受けにくく,値がほぼ一致するはずである.そこで,観測点間距離が30km以内のすべての観測点の組み合わせについて,P波,S波到着時刻から計算される発震時刻の差を調べた.自動処理の場合の平均的発震時のズレは,0.27秒,一元化のそれは0.26秒であった.これらの比較から,人間に近い,あるいは,それ以上に高精度の自動読み取りシステムが完成されつつあると結論される.