日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS30_28PM2] 海溝型巨大地震の新しい描像

2014年4月28日(月) 16:15 〜 18:00 メインホール (1F)

コンビーナ:*金川 久一(千葉大学大学院理学研究科)、古村 孝志(東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター)、小平 秀一(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、座長:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

17:00 〜 17:15

[SSS30-21] 沈み込み帯における地震発生数と前弧地形の関係

*西川 友章1井出 哲1 (1.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:地震発生数, 沈み込み帯, 前弧地形, 浸食・付加作用, アスペリティー

世界の沈み込み帯の地震活動には、地震発生数や最大地震サイズなど様々な点おいて違いがある。このような地震活動の違いはそれぞれの沈み込み帯のプレート相対速度や、沈み込むプレートの浮力などによって説明されてきた。とくに地震発生数は、Ide (2013)によりプレート相対速度との比例関係が指摘されている。これは地震がプレートの歪みに起因することを考えれば自然な関係である。その一方、沈み込み帯上盤も地震発生を支配する重要な要素である。これまでの地震観測やテクトニクスの研究では、上盤前弧の地形がプレート境界の固着や間隙流体圧などの摩擦特性と関係することが指摘されている。このことから、世界の沈み込み帯の前弧地形の違いは沈み込み帯ごとの摩擦特性の違いを反映していると考えられる。しかし、このような上盤地形の違いが世界の沈み込み帯の地震活動と具体的にどのように対応しているかは明らかではない。そこで本研究では、Smith and Sandwell (1997) による海底地形データを用いて、世界の沈み込み帯上盤における海溝斜面の傾斜を計算し、それらとETASモデル (Ogata, 1988) から計算される沈み込み帯における定常地震発生数(余震を除いた地震発生数)を比較した。その結果、海溝斜面の傾斜と定常地震発生数に正の相関が見られた。上盤の海溝斜面が急斜面になっている沈む込み帯ほど定常地震発生数が多く、緩斜面では少ない。また、海溝斜面と定常地震発生数の関係は、前述のプレート速度と地震発生数の比例関係 (Ide, 2013) に従わない沈み込み帯(カスカディア、南チリなど)も説明することができるように思われる。上盤地形とプレート境界の摩擦の関係を説明する臨界尖形モデル (Davis et al., 1983; Dahlen, 1984)や沈み込み帯のアナログ実験 (Gutscher et al., 1996など) によれば、海溝斜面が急斜面であることは前弧域のプレート間摩擦が大きいことを意味する。本研究の結果と合わせて考えると、急斜面でプレート境界の摩擦が大きい沈み込み帯では定常地震発生数が多いということになる。このことは浸食・付加作用とプレート境界における凹凸を考えることで理解できる。海溝斜面が急斜面である沈み込み帯は浸食作用が卓越した沈み込み帯と考えられている (Clift and Vanucchi, 2004)。そのような沈み込み帯では堆積物の厚さが薄く海底面の凹凸がそのまま沈み込み、上盤ウェッジ先端部で大きな摩擦を生む。地震発生領域(サイスモジェニックゾーン)ではそれらの凹凸は無数の小さなアスペリティーとして働き、多くの地震が発生する。逆に緩斜面の沈み込み帯は付加作用の卓越した沈み込み帯である。底面の凹凸は堆積物によって滑らかになり、上盤ウェッジ先端部での摩擦は小さい。地震発生領域では滑らかなプレート境界は一つの大きなアスペリティーとして働き、結果として地震数が少なくなる。また、このようなアスペリティーの数や大きさの違いは沈み込み帯における巨大地震の発生様式の違いにも関連があると思われる。本研究は上盤地形と地震活動の対応を明らかにするとともに、地震発生数がプレート相対速度と歪みのような力学的要因のみならず、浸食・付加作用や堆積物、プレート境界の凹凸などの物質的要因にも支配されていることを示すものである。