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[SSS31-07] 龍門山断層ガウジの含水条件下の高速摩擦強度とWFSD掘削孔における温度異常との比較
キーワード:高速摩擦実験, 龍門山断層, ウェンチャン地震, 摩擦発熱, 孔内温度測定
最近日本海溝におけるJ-FASTプロジェクトでも試みられたように、大地震後の断層沿いの温度異常から摩擦の強度を見積もる研究が世界的にも注目を集めている。2008年5月12日に中国の四川省で発生したウェンチャン地震(Mw= 7.9、四川大地震とも呼ばれる)では、龍門山断層系の主要断層のひとつである映秀―北川断層沿いに250 km を越える地表断層が認められ、この断層の西部の都江堰市郊外の虹口露頭付近において、Wenchuan Earthquake Fault Scientific Drilling (WFSD)と呼ばれるプロジェクトで2本の断層帯がおこなわれた。WFSD-1孔は地震後1年以内という非常に迅速に掘られた掘削孔であり、WFSDでも掘削孔における温度測定はプロジェクトの重要項目になっている。掘削では深度約580~760 mの間に見事な断層帯が認められた(約10 mのカタクレーサイト、多数の薄い断層ガウジ帯と断層角礫からなる;Li et al., 2013, Tectonophysics)。また孔内の温度計測の結果、深さ約590 mにおいて0.15℃程度の非常に小さな異常しかが認められず、これから推定された断層の摩擦係数は0.03またはそれ以下である可能性が高いと報告されている(Mori et al., 2010, AGU)。この摩擦係数は過去約20年間にわたって行われてきた乾燥条件下での高速摩擦実験の結果よりもさらに小さい値である。 そこで我々は、掘削孔に近い虹口露頭の断層ガウジを含水条件下で測定して(含水量は25wt%)、無水条件における実験結果と比較検討した。実験時のすべり速度は1.3 m/s, 垂直応力は1.0~4.8 MPaであった。実験試料は掘削地点から数100 m離れた虹口断層露頭から採取した面状断層ガウジを用いた。実験の結果、含水ガウジのピーク摩擦係数は0.1-0.36と低い値を示し、さらに定常摩擦係数は0.03~0.14という極めて低い値に達することが明らかになった。また、ピーク摩擦係数、定常摩擦係数ともに垂直応力の増加と共にべき乗に減少していくことが明らかになった。WFSD-1孔内ではco-seismicな断層変位は600~750 mで、断層面の傾斜角はおよそ65°(Li et al. 2013, Tectonophysics)とされているので、岩石密度を2.5と仮定して断層面にかかる垂直応力を計算するとおよそ6.3から7.9 MPaと求められる。我々の摩擦実験の定常摩擦係数をこの垂直応力へ外挿してやると、定常摩擦係数は0.028~0.023となり、Moriらが温度以上から復元した摩擦係数(0.03以下)と非常に整合的な結果が得られる。 さらに、FE-SEMを用いてマイクロストラクチャーの観察を行った所、無水ガウジはナノ粒子まで粉砕されたスリップゾーンと変形が弱いゾーンから構成されるのに対して、含水ガウジではガウジの上部がやや細粒化しているものの、ガウジ粒子細かく粉砕された痕跡や明瞭なスリップゾーンは認められなかった。これはthermal pressurizationや、ガウジの圧密にともなう間隙水圧の上昇によって、粒子間の接触による粉砕が抑制されたためだと考えられる。