日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32_1AM1] 断層帯のレオロジーと地震の発生過程

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 315 (3F)

コンビーナ:*大橋 聖和(千葉大学大学院理学研究科)、飯沼 卓史(東北大学災害科学国際研究所)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、三井 雄太(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)、座長:大橋 聖和(千葉大学大学院理学研究科)、三井 雄太(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)

10:15 〜 10:30

[SSS32-06] 海陸地殻変動観測に基づく2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動モデル

*飯沼 卓史1日野 亮太1木戸 元之1Sun Tianhaozhe2Wang Kelin3太田 雄策4長田 幸仁1藤本 博己1稲津 大祐5 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.ヴィクトリア大学、3.カナダ地質調査所、4.東北大学大学院理学研究科、5.防災科学技術研究所)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震, 余効変動, 粘性緩和, 余効すべり, GPS, 海底地殻変動

はじめに2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)に伴う余効変動は,本震発生から3年近くが経過した現在においても,陸上及び海底での地殻変動観測により,有意な大きさの変動として捉え続けられている.飯沼・他(2013, 地震学会秋季大会)は,GPS/音響測距結合方式の海底地殻変動観測及び圧力計を用いた海底水圧観測によって推定された海底地殻変動データと,陸上GPS観測により得られた変位時系列データを共に説明するためには,余効すべりやプレート間の固着の回復といった,沈み込む太平洋プレートと陸側のプレートとの境界で生じる摩擦・すべり現象に起因する弾性変形だけでなく,粘性緩和等の非弾性的な要因による変形のモデル化が不可欠であることを示した.これを踏まえ,より現実的な余効変動のモデルの構築のため,有限要素法を用いて,沈み込むスラブの形状や海洋性及び大陸性それぞれのマントルの粘性の違いを考慮したモデルを作成し,これを用いて粘性緩和による変位を推定することとした.また,地殻変動観測により得られた変位時系列データから,有限要素モデルにより計算された粘性緩和による変位を差し引いたものが余効すべりによる変位であるとの仮定のもとに逆解析を行って,余効すべり分布の時空間発展の推定を行った.本講演では,これらの結果を紹介し,また,粘性構造の仮定の違いが余効すべり分布の推定に与える影響について議論を行う.データおよび解析手法GPS/音響測距結合方式の海底地殻変動観測データ,自己浮上式の海底圧力計で記録された水圧データから推定される海底上下変位データ,並びに陸上のGPS連続観測点での変位時系列データを用いる.海底水圧データについて一次的な解析を行ったところ,取得されている期間については,すべての圧力観測点に関して共通の緩和時間を持つ対数関数を用いて観測データを近似できることが分かったので,各観測点での振幅を推定し得られた対数関数を用いて圧力計揚収後の水圧データを外挿的に補完した.解析期間中に発生した地震に伴う変位については,気象庁のCMTカタログを用いて期待される変位量を計算し,測地学的観測から求められた変位時系列データからこれを差し引くことで補正を行った.粘性緩和による変位の見積りには有限要素法を用いた.沈み込むスラブの形状,海洋性プレートと大陸性プレートそれぞれのマントルの粘性の違い等を反映させて,また,マントルウェッジ部分には高粘性領域を設定した.海底地殻変動データを用いて推定されたIinuma et al. (2012)の地震時すべりモデルを初期値として与えて粘性流動を駆動させることによって,粘性緩和から期待される変位時系列を作成した.これらを観測された変位時系列から差し引いて,余効すべりによると思われる成分のみを,Yagi and Kikuchi (2003)に基づく時間依存逆解析手法を用いて解析し,余効すべりの時空間発展を推定した.結果有限要素法による計算の結果を見ると,西向きの変位を示していた海底観測点の動きは粘性緩和によって十分説明可能である一方,岩手県南部から茨城県北部にかけての陸上GPS観測点においては,観測された値よりも大きな東向きの変位が計算されている.そのため,今度は陸域における西向きの変位を余効すべりによって説明する必要が生じてしまっている.この変位時系列を逆解析すると正断層型のすべりが分布する領域が現れる.正断層型のすべりが推定されること自体は,水平成層構造を仮定して粘性緩和による変位を見積もった場合と同じであるが,その位置は大きく異なる.水平成層構造を仮定した場合に地震時すべりが大きかった領域内に推定されていたのに対し,不均質構造を仮定して有限要素法を用いて計算した場合には,宮城県の沖合の,地震時すべりが大きかった領域よりもやや深いところに正断層型のすべりが分布する.正断層型のすべりが推定されていることは,プレート間の固着がそこで生じていると考えることができるため,その位置及びすべりレートを精度よく見積もることはプレート境界の摩擦特性を考えるに非常に重要である.ゆえに,その推定が粘性緩和の見積りに大きく依存してしまうのは避けるべき問題であり,今後,より尤もらしい粘性緩和による変位を推定するため,モデルを現実の構造に即して高度化していく必要がある.当日の講演においては,最新のモデルを用いた解析結果を紹介する予定である.