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[STT57-P01] 南極・昭和基地における遠地地震の検知能力の年周変化
キーワード:地震検知率, 年周変化, 南極, 昭和基地, ベイズ統計, 統計地震学
昭和基地における過去約20年間の遠地地震に対する検知能力には、年周変化がみられることが指摘されている[Kanao et al., 2012a, 2012b]。その主たる原因としては、南極大陸周辺における海氷の面積・厚さが冬期に増大することが、周辺海域における海洋波浪(脈動)の発生を抑圧し、その結果として地震計のノイズレベルが季節変化すること[Grob et al., 2011; 金尾・他, 2012c]が考えられる。
これは、気象・海氷などの環境パラメータが地震検知能力に影響を与えることを意味する。但し、Kanao et al. [2012a, 2012b]は、検知した地震のマグニチュード(M)の下限に着目して、上述の年周変化を指摘しており、環境パラメータと地震検知能力との関係を詳らかにするには、まず、地震検知能力の年周変化を定量化することが必要である。以上のことを踏まえ、本研究では、以下のような解析を行った。
用いたデータは、Kanao et al. [2012a, 2012b]が扱ったものと同じ、昭和基地において検知された1987年から2007年までの遠地地震カタログである。扱った地震の数は、Mが決まっていないもののみを除いた19,044個である。また、検知能力の年周変化を調べることが目的であることから、データは1年ごとに分割し、重ね合わせたものを解析した。
地震検知能力の定量化には、Ogata & Katsura [1993]のモデルを改良して用いた。このモデルでは、Gutenberg-Richter(GR)則 [Gutenberg & Richter, 1946]と、あるMにおける地震の検知率との積により、観測された全地震のMが従う確率分布を表現する。但し、本研究で用いたカタログのMは実体波マグニチュード(Mb)であるため、いわゆるMの飽和がみられる。このことを考慮し、通常のGR則ではなく、最大地震のMをパラメータとして含むようGR則を改良したもの[Utsu, 1974]を用いた。あるMにおける地震検知率は、Ringdal [1975]をはじめとする過去の研究例 [e.g., Ogata & Katsura, 1993; Iwata, 2008, 2012, 2013a, 2013b] に従い、正規分布の累積密度関数で表すこととする。この定式化により、地震検知率が50%となるMに相当するパラメータμが導入され、このパラメータにより、地震検知能力を定量的に表すことが出来る。
そして、地震検知能力の時間(年周)変化、即ちμの時間変化を、Iwata [2013a, 2013b]とほぼ同様の手法により推定した。これは、各地震の起きた時刻を節点とする線形スプラインでμの時間変化を表し、その変動が滑らかになるような制約を課しつつ、μの値を最適化するいわゆるベイズ平滑化に基づく推定手法である。
解析の結果を以下に簡単にまとめる。まずABIC [Akaike, 1980]に基づくモデル比較を行ったところ、μの年周変化が「ない」としたモデルのABICの値に比べ、「ある」としたモデルのそれは54.9小さくなった。このことから、検知能力の年周変化は非常に有意と言える。また、推定されたμの年周変化は12月下旬に最大値(最も検知能力が悪い)を、8月中旬に最小値(最も検知能力が良い)を持ち、両者の差は約0.13であった。μの年周変化が最大・最小となる時期は、昭和基地において観測された平均気温記録が最大・最小となる時期とほぼ一致しており、環境パラメータと地震検知能力との関係が確認された。
参考文献
- Akaike, 1980, in Bayesian Statistics (eds. J. M. Bernardo et al.), 143-165.
- Grob et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 38, L11302, doi:10.1029/2011GL047525.
- Gutenberg & Richter, 1944, Bull. Seismol. Soc. Am., 34, 185-188.
- Iwata, 2008, Geophys. J. Int., 174, 849-856.
- Iwata, 2012, Res. Geophys., 2, 24-28.
- Iwata, 2013a, 167-184, in Earthquake Research and Analysis: New Advances in Seismology (ed. D’Amico, S.).
- Iwata, 2013b, Geophys. J. Int., 194, 1909-1919.
- Kanao et al., 2012a, 1-20, in Seismic Waves: Research and Analysis (ed. Kanao, M.).
- Kanao et al., 2012b, Inter. J. Geosci., 3, 809-821.
- 金尾・他, 2012c, 月刊地球, 34, 491-499.
- Ringdal, 1975, Bull. Seismol. Soc. Am., 65, 1631-1642.
- Ogata & Katsura, Geophys. J. Int., 113, 727-738.
- Utsu, 1974, J. Phys. Earth, 22, 71-85.
これは、気象・海氷などの環境パラメータが地震検知能力に影響を与えることを意味する。但し、Kanao et al. [2012a, 2012b]は、検知した地震のマグニチュード(M)の下限に着目して、上述の年周変化を指摘しており、環境パラメータと地震検知能力との関係を詳らかにするには、まず、地震検知能力の年周変化を定量化することが必要である。以上のことを踏まえ、本研究では、以下のような解析を行った。
用いたデータは、Kanao et al. [2012a, 2012b]が扱ったものと同じ、昭和基地において検知された1987年から2007年までの遠地地震カタログである。扱った地震の数は、Mが決まっていないもののみを除いた19,044個である。また、検知能力の年周変化を調べることが目的であることから、データは1年ごとに分割し、重ね合わせたものを解析した。
地震検知能力の定量化には、Ogata & Katsura [1993]のモデルを改良して用いた。このモデルでは、Gutenberg-Richter(GR)則 [Gutenberg & Richter, 1946]と、あるMにおける地震の検知率との積により、観測された全地震のMが従う確率分布を表現する。但し、本研究で用いたカタログのMは実体波マグニチュード(Mb)であるため、いわゆるMの飽和がみられる。このことを考慮し、通常のGR則ではなく、最大地震のMをパラメータとして含むようGR則を改良したもの[Utsu, 1974]を用いた。あるMにおける地震検知率は、Ringdal [1975]をはじめとする過去の研究例 [e.g., Ogata & Katsura, 1993; Iwata, 2008, 2012, 2013a, 2013b] に従い、正規分布の累積密度関数で表すこととする。この定式化により、地震検知率が50%となるMに相当するパラメータμが導入され、このパラメータにより、地震検知能力を定量的に表すことが出来る。
そして、地震検知能力の時間(年周)変化、即ちμの時間変化を、Iwata [2013a, 2013b]とほぼ同様の手法により推定した。これは、各地震の起きた時刻を節点とする線形スプラインでμの時間変化を表し、その変動が滑らかになるような制約を課しつつ、μの値を最適化するいわゆるベイズ平滑化に基づく推定手法である。
解析の結果を以下に簡単にまとめる。まずABIC [Akaike, 1980]に基づくモデル比較を行ったところ、μの年周変化が「ない」としたモデルのABICの値に比べ、「ある」としたモデルのそれは54.9小さくなった。このことから、検知能力の年周変化は非常に有意と言える。また、推定されたμの年周変化は12月下旬に最大値(最も検知能力が悪い)を、8月中旬に最小値(最も検知能力が良い)を持ち、両者の差は約0.13であった。μの年周変化が最大・最小となる時期は、昭和基地において観測された平均気温記録が最大・最小となる時期とほぼ一致しており、環境パラメータと地震検知能力との関係が確認された。
参考文献
- Akaike, 1980, in Bayesian Statistics (eds. J. M. Bernardo et al.), 143-165.
- Grob et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 38, L11302, doi:10.1029/2011GL047525.
- Gutenberg & Richter, 1944, Bull. Seismol. Soc. Am., 34, 185-188.
- Iwata, 2008, Geophys. J. Int., 174, 849-856.
- Iwata, 2012, Res. Geophys., 2, 24-28.
- Iwata, 2013a, 167-184, in Earthquake Research and Analysis: New Advances in Seismology (ed. D’Amico, S.).
- Iwata, 2013b, Geophys. J. Int., 194, 1909-1919.
- Kanao et al., 2012a, 1-20, in Seismic Waves: Research and Analysis (ed. Kanao, M.).
- Kanao et al., 2012b, Inter. J. Geosci., 3, 809-821.
- 金尾・他, 2012c, 月刊地球, 34, 491-499.
- Ringdal, 1975, Bull. Seismol. Soc. Am., 65, 1631-1642.
- Ogata & Katsura, Geophys. J. Int., 113, 727-738.
- Utsu, 1974, J. Phys. Earth, 22, 71-85.