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[STT58-02] 空中電磁探査技術を活用した深層崩壊の予測技術に関する研究
キーワード:空中電磁探査, 深層崩壊
平成23年台風12号による紀伊半島の災害をはじめとして、近年、深層崩壊による災害が多発している。深層崩壊による被害としては、崩壊そのものによって被害も大きなものになるが、河道が閉塞し天然ダムが形成された場合には決壊により下流域に大きな被害が生じるおそれもある。このため、深層崩壊によるリスクを評価するための様々な取り組みが行われている。特に国土交通省は、平成22年に過去に深層崩壊が発生した箇所の第四紀隆起量と地質に着目した深層崩壊推定頻度マップを公表するとともに、平成24年には深層崩壊渓流レベル評価マップ及び深層崩壊跡地密度マップを公表している。今後は想定しうる深層崩壊対策をハード・ソフトの両面から実施するため、斜面スケールでのリスク評価が求められている。斜面スケールでのリスク評価手法として、これまでレーザ計測による微地形要素の抽出などが主流であったが、最近になって空中電磁探査がクローズアップされている。空中電磁探査のメリットとして、深層崩壊に関連する地質境界が明らかとなる可能性があること、地下の水文特性が明らかとなる可能性があること、などが挙げられる。一方で、地質境界の比抵抗値や地下水の賦存箇所の決定方法が明確でないなどの不確定要素もある。本研究では、これまでに空中電磁探査が実施された深層崩壊発生箇所を対象に、空中電磁探査、地質調査、水文調査等の結果を整理し、深層崩壊の発生の恐れがある箇所での鉛直方向の比抵抗パターンの特徴や、深層崩壊のすべり面となる可能性の高い地質境界での比抵抗値のしきい値の設定方法について検討を行った。 研究対象は、別府田野川流域(約4.4km2)、富士川流域(約3.7km2)、姫川流域(約15.2km2)、熊野川流域(約10.1km2)の4地域である。これらの地域は、いずれも深層崩壊の発生実績があり、かつ空中電磁探査による広域調査が実施されている。なお、別府田野川流域・富士川流域・熊野川流域の地質は四万十帯の砂岩・頁岩であり、姫川流域の地質は火山岩類が優勢である。 本研究では、先ず、空中電磁探査による地域ごとの比抵抗特性について検討した。対象地域に出現する比抵抗値の範囲は、別府田野川流域と富士川流域では1~400Ω・mであるのに対し、姫川流域では1~1,200Ω・m、熊野川流域では1~2,400Ω・mを示し、地質や地域によって比抵抗値の分布に差があることが分かった。一方、深層崩壊の発生の恐れがある箇所での地表から深部への鉛直方向の比抵抗パターンに着目すると、低比抵抗から高比抵抗に変わるパターン、高比抵抗から低比抵抗に変わるパターン、高比抵抗から低比抵抗に変わりさらに高比抵抗に変わるパターンの3パターンがあることが分かった。このことから、鉛直方向に比抵抗値が変化する深度が深層崩壊の基底部となる可能性がある。別府田野川流域、富士川流域、姫川流域ではボーリング調査が実施され、ボーリングコアの観察から風化部と新鮮部の地質境界が認定されている。この地質境界に対応する比抵抗値は、別府田野川流域では100Ω・mが、富士川流域では70Ω・mが、姫川流域では500Ω・m、680Ω・m、1,000Ω・mであった。これらのことから、比抵抗値の出現頻度や地質境界に該当する比抵抗値は、地域や地質によって異なることが確認された。したがって、空中電磁探査を実施する際には代表箇所でボーリング調査を併せて実施し地質と比抵抗値の関係を整理した上で深層崩壊のリスク評価を実施する必要がある。なお、熊野川流域の深層崩壊箇所では、尾根から谷部に連続する低比抵抗ゾーンや鉛直方向の低比抵抗ゾーンが共通して確認され、水文調査結果による地下水状況と一致している。このことから、今後、深層崩壊に関連する比抵抗構造についてもデータを蓄積し、深層崩壊の発生の恐れがある箇所の抽出方法、崩壊深・土砂量の推定方法を検討していきたいと考えている。