日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC53_28PM1] 火山とテクトニクス

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 413 (4F)

コンビーナ:*下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、古川 竜太(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、土志田 潔(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、座長:鈴木 由希(東京大学地震研究所)

14:15 〜 14:30

[SVC53-01] 西暦1779年以降の桜島火山における玄武岩質マグマの多様性と注入時期

海老原 佳帆1、*中川 光弘1吉本 充宏1小林 哲夫2 (1.北海道大学地球惑星システム科学、2.鹿児島大学地球環境科学)

キーワード:桜島火山, マグマ系, マグマ混合, かんらん石, 火山噴火

桜島火山の歴史時代噴火のマグマ系に関して、中川・他(2011)では、1471年・1779年噴火においては珪長質マグマ(Sマグマ)と安山岩質マグマ(Aマグマ)による二端成分マグマ混合が起き、1914年以降の噴火では、S+Aの混合マグマに玄武岩質マグマ(Bマグマ)が注入していると結論付けた。20世紀以降にBマグマが注入した根拠としては、20世紀以降の噴出物にかんらん石や高An斜長石が含まれていることと、全岩化学組成において20世紀以降とそれ以前とでは組成トレンドが異なることを挙げている。先行研究で分析された1779年の噴出物は陸上の試料のみであったが、この年はプリニー式噴火の直後に海底でも噴火が起きたことが知られている。本研究では1779年海底噴出物を新たに採取し、既存のデータと合わせ、18世紀以降のマグマプロセスについて考察を行う。1779年海底噴出物は、主に縞状の軽石と黒色でやや発泡した溶岩で構成されている。斑晶鉱物としては斜長石、斜方輝石、単斜輝石、磁鉄鉱を含んでおり、少量のかんらん石が晶出するという点で陸上噴出物とは異なる。海底噴出物に含まれているかんらん石斑晶は、反応縁を持たない。一方、20世紀以降の噴出物も同様にかんらん石斑晶を含んでいるが、それら斑晶は反応縁のないものとあるものの両方が共存する特徴がある。1779年海底噴出物のかんらん石はFo=78~74にほとんどの斑晶が集中し、Fo=77にピークを示す。20世紀以降の噴出物ではFo=81に組成のピークを持ち、Mgに乏しい斑晶も含むFo=82~60の広い組成幅を示す。20世紀以降のかんらん石斑晶組成と反応縁の関係に注目すると、Fo=74以上の組成のものは反応縁を持たないが、それよりも低Foの斑晶には反応縁が認められた。磁鉄鉱は噴火年代によらずMg/Mn=4~12の組成を示すが、1779年海底噴出物はバイモーダルな組成分布である。一方、全岩化学組成においては、1779年海底噴出物はSiO2=〇-〇wt%のデイサイト~安山岩で、1779年陸上噴出物より組成幅が苦鉄質側に広いことで区別できる。MgO、P2O5などのハーカー図では1779年陸上噴火、同海底噴火、20世紀以降の3グループで異なる直線トレンドを示す。1779年海底噴出物の斜長石、斜方輝石、単斜輝石斑晶は、陸上噴出物中の斑晶と類似した組成を示す一方で、輝石と非平衡な高Foかんらん石(Fo=77)や高Mg/Mn磁鉄鉱といった、陸上の試料中では存在しないMgに富む斑晶も認められる。これらのことより1779年海底噴火では20世紀以降と同様に、陸上で噴出したS+Aの混合マグマに玄武岩質マグマが注入したと考えられる。つまり玄武岩質マグマのマグマ系への注入は1779年海底噴火前には起こっていたことが明らかになった。しかしながらかんらん石斑晶の組成に注目すると、18世紀以降の桜島火山においては、1779年海底噴火から注入したFo=77のかんらん石斑晶を含む玄武岩質マグマ(B1マグマ)と、20世紀以降注入しているFo=81のかんらん石斑晶を含む玄武岩質マグマ(B2マグマ)の、2種類の玄武岩質マグマの存在が示唆される。これは全岩化学組成において、1779年海底噴火と20世紀以降の組成トレンドが異なることとも調和的である。それらの玄武岩質マグマの注入時期は、Fo=77あるいはFo=81のかんらん石斑晶が反応縁を持たず、さらに不均質な石基組織が認められることから、B1あるいはB2のマグマ注入後、速やかに噴火にいたったと考えられる。しかしながら20世紀の噴出物ではかんらん石斑晶の組成幅は広く、Mgに乏しいかんらん石斑晶は輝石反応縁を持っている。つまり反応縁のあるかんらん石は注入後、メルトと十分に反応して噴火にいたったと考えられる。その反応過程でかんらん石はFeに富む組成へと変化したと考えられる。このように反応縁を持つかんらん石斑晶を含む20世紀噴出物では、それ以前の繰り返しの玄武岩質マグマの注入現象を記録している出残りマグマに、新たに玄武岩質マグマが注入したと考えられる。 以上のかんらん石斑晶から推測される、18世紀以降の桜島火山における玄武岩質マグマの注入プロセスは、次のとおりである。1779年海底噴火では、直前の陸上噴火で噴出したS+Aの混合マグマに新たにB1マグマが注入して、短時間のうちに噴火した。この出残りマグマでは、噴火後にかんらん石とメルトの反応が進み、反応縁を持つかんらん石が生成された。そして1914年噴火では、その出残りマグマに大量のB2マグマが注入し、やはり短時間のうちに噴火に至った。しかし1914年噴出物には反応縁を持たないFo=77のかんらん石も多く認められるので、B1マグマも貫入した可能性がある。1955年以降は、反応縁を持たないFo=81の少量のかんらん石斑晶を含んでおり、1955年以降は出残りマグマにB2マグマのみの注入が断続的に続いているようである。