日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC53_28PM1] 火山とテクトニクス

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 413 (4F)

コンビーナ:*下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、古川 竜太(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、土志田 潔(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、座長:鈴木 由希(東京大学地震研究所)

15:15 〜 15:30

[SVC53-05] Opxの累帯構造を用いた初生マグマ推定法と四国北東部のHMAマグマ形成場の時空間変化への適用

*森里 文哉1小澤 一仁1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:沈み込み帯, 西南日本, 初生マグマ, マグマ混合, 高Mg安山岩

沈み込み帯は海洋プレートがマントル内に下降を始め,大陸地殻の形成・削剥が生じる場所であり,プレートテクトニクスの進化を明らかにする上で重要である.沈み込み開始時については,マントルウェッジの温度構造や含水量の時間変化が数値シミュレーションによって推定されてきたが(Iwamori, 2000など),物質情報からの制約は少ない.地球内部の温度構造を推定する方法の一つに,マグマを用いることが考えられる(Green, 1981).その場合まず,マントルと最終的に平衡であった初生マグマ組成を知る必要があるが,結晶分別作用や,沈み込み帯の場合は特に地殻過程(マグマ混合,地殻混染,脱ガスなど)の影響を除去することが必要となる.また,沈み込み帯ではマントルウェッジ内のマントル流動も火成活動に影響していると考えられており(Tatsumi et al., 1983; 田村, 2003),そのような上昇流を描きだすためにはSakuyama et al. (2009)のようにマグマ形成場の時空間変化を明らかにすることが必要となる.沈み込みが開始して比較的間もない場所として,西南日本弧が挙げられる.西南日本弧ではおよそ17Maに四国海盆が沈み込みを開始し,沈み込みの進行に伴い前弧域から背弧域にかけて火成活動の場が移行していったとされるが(Kimura et al., 2005),沈み込み帯の具体的な温度構造の変化については明らかになっていない.西南日本のうち,瀬戸内火山岩帯ではマントルカンラン岩と平衡に共存しうる高Mg安山岩(HMA)が活動し,マントルウェッジや沈み込む海洋プレートの温度構造を含めた議論がなされてきたが(Tatsumi & Hanyu, 2003など),初生マグマ組成推定時にマグマ混合や脱ガスの影響を考慮すること,マグマ形成場の時空間変化を考慮することなど,未解決の問題が残されている.今回我々は,波動累帯構造を示すOpxを用いたメルト組成の時間変化の推定法を考案し,瀬戸内火山岩帯に産するHMAの初生マグマ組成推定を試みた.そして初生マグマ組成の時空間変化から,マグマ形成場の推定を試みた.対象としたHMAは四国北東部,香川県中部の城山地域(Sato, 1982など)に産出するもののうち最も初生的(SiO2:57.3wt%,MgO:8.56wt%,Mg#:69.3)なものである.斑晶としてカンラン石,Opx,少量のCpxを含む.EPMAで斑晶組成の定量分析を行ったところ,カンラン石は正累帯構造を示しMg#の最高値(87.6)が噴出物組成から計算される平衡値(88.7)を下回るため,噴出物組成をもつメルトから閉鎖系で晶出したと判断した.一方Opxには逆累帯構造のものや波動累帯構造を示すものがあり,それらの外形や組成境界が自形を示すため,結晶成長か接触したメルトからの元素拡散によって形成されたと判断される.その中に噴出物との平衡値(88.8)よりも高いMg#(最大91.5)を示すゾーンが存在し,カンラン石に比べより未分化なメルト組成を記録していると考えられる.またこれらのOpxの累帯構造に見られる組成変化は異なる斑晶間で一致するため,共通のメルト組成変化の様々な時間ステージを反映していると考えられる.噴出物から初生マグマ組成を復元するには,Putirka(2005)のようにメルトが最もEn成分に富むOpxと平衡になるまで,分別されたカンラン石やOpxを加え戻すことが考えられる.ただし,マグマ混合によってできたメルトを出発点として結晶分別作用を補正すると,初生マグマ組成として誤った推定値が得られるため,混合前のマグマ組成を推定する必要がある.マグマの混合率を評価するために,例えばKuritani(1998)はマグマ溜まり内の温度,含水量によって晶出する斜長石組成が異なることを利用して,噴出物に含まれる斜長石の累帯構造のパターンと量比を用いることを試みている.以上を踏まえ,次のようにメルト組成変化を推定した.①融解実験の結果からOpx-メルト間の分配係数をコンパイルし,Opxを晶出させるメルト組成を推定. ②結晶分別による組成変化トレンドとマグマ混合による組成変化トレンドをモデル計算と比較して区別.③Opxの累帯構造パターンと量比から混合率を推定し,マグマ混合が想定される場合には混合マグマの端成分を推定.④マグマ混合を除去した結晶分別トレンドに従い,最もEn成分に富むOpxとメルトが平衡になるところを初生マグマ組成とする. 香川県西部,七宝山地域(川畑・周藤, 2000)のHMAに同様の手法を適用し,城山地域と比較して初生マグマ組成の空間変化からマグマ形成場を推定した.