日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC55_1PM2] 活動的火山

2014年5月1日(木) 16:15 〜 17:30 416 (4F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、座長:山本 希(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、風間 卓仁(京都大学理学研究科)

16:15 〜 16:30

[SVC55-P05_PG] 2013年の樽前山の火山活動と噴火シナリオへの適用の試み

ポスター講演3分口頭発表枠

*長山 泰淳1宮本 聖史1藤松 淳1碓井 勇二1伏谷 祐二1宮村 淳一1 (1.札幌管区気象台)

キーワード:樽前山, 火山活動, 噴火シナリオ, 地殻変動, VT地震活動

気象庁および北海道大学は、樽前山周辺に傾斜計およびひずみ計を設置し連続観測を行っている。この観測網により、2013年6月19日‐7月4日に火山性の地殻変動が観測された。この地殻変動は茂木モデル(茂木、1958)を仮定すると、樽前山山頂から北西に約1.5km離れた深さ3-4kmでの約105m3オーダーの体積膨張により説明が可能である。これは気象研究所(2008)や北海道大学ほか(2011)などによって従来から報告されてきた山頂溶岩ドーム直下のごく浅部の圧力源とは異なるものであった。気象研究所(2013)の分類によると、今回の圧力源は深部でのマグマの蓄積・移動によるゆっくりとした膨張を示すグループに属すると考えられる。また、今回の地殻変動に同期して、山頂溶岩ドーム直下のごく浅部でB型地震がやや増加した。これらのことは、火山性流体(現時点でその実体は不明)がより深部から山頂北西側の3‐4㎞の深さに上昇し、その影響を受けて山頂溶岩ドーム直下への熱フラックス(高温の火山ガスなど)が高まったのではないかと解釈している。
一方、体積膨張による火山性地殻変動が停止した7月上~中旬以降に、山頂西側の深さ3-5kmを震源とする火山構造性地震(VT地震)活動が始まった。この地震活動は8月にかけて特に活発で、9月下旬には最大地震M3.0が発生した。今回の活動は、1967年の気象庁による震動観測開始以来、最も顕著なVT地震活動となった。VT地震は、山谷ほか(2005、2013)による高比抵抗領域(50-500Ωm)で発生している一方、今回の圧力源から山頂直下にかけての低比抵抗領域(<50Ωm)には発生していない。

噴火時の適切かつ迅速な防災対応を目指して、気象庁は全国の31火山(2014年1月時点)で噴火警戒レベルの運用を行っている。このレベルを適切に防災対策に活用して頂くため、火山活動の推移を時系列で表現した噴火シナリオにより地元自治体と意識の共有を図っている。樽前山は1909年を最後にマグマ噴火しておらず、近代的な観測を開始して以来経験した活動はいずれも山頂溶岩ドーム付近のごく浅部の現象である。マグマ噴火に至るまでの深部から浅部へのマグマ上昇に伴う現象の観測経験がないため、特に深部の現象については他火山での観測事例をもとに噴火シナリオが作成されている。今回の地殻変動やVT地震活動の原因は不明確であるが、その発生領域は樽前山周辺の地質構造あるいはマグマ供給系を反映したものと考えられる。そこで、今回の観測事実から、樽前山の深部(深さ3-5km以浅)の活動推移をイメージ化した上で、深部から浅部へ火山活動が推移する噴火シナリオの修正を試みた。
ただし、今回検討した火山活動のイメージは、多くの仮定に基づいた不確かなものである。噴火シナリオの信頼性を高めるためには、樽前山のマグマ供給系の解明が不可欠であり、さらなる地殻変動やVT地震などの観測事例の蓄積と地下構造探査が必要である。自然地震を用いた地震波減衰域の推定等、現時点でも可能な取り組みについては今後進めたいと考えている。その上で、深部からのマグマ上昇に伴う地殻変動や地震活動などの各種現象を確実に捉えるための観測体制を再検討する必要がある。

謝辞:本研究を行うにあたり、北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センターの傾斜計、ひずみ計データおよび、地震波形データを使用させて頂きました。ここに記して感謝いたします。