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[U05-10] アモルファス炭酸カルシウム(ACP)相変化へのリン酸イオンの影響
キーワード:アモルファス, 炭酸カルシウム, リン酸, 相転移, バイオミネラリゼーション
アモルファス炭酸カルシウム(ACC)は、生体模擬環境下において、カルシウムと炭酸を混合した場合、初生相として出現する。このACCを経て、後発の結晶相が形成し、ACCの構造と、後発の結晶相の多形の間には密接な関係があるということが知られている。我々は、先行研究において生体必須元素であるPO4は、μMスケールの濃度でも後発の多形の種類や安定性に大きな影響を与え、生体模擬環境下における初生結晶相であるバテライトの形成を強力に抑制し、カルサイトが代わりに晶出するということを示した。この理由として、ACC中に取り込まれたPO4イオンがアモルファス相の転移機構を調整しているのではないかという仮説の元、PO4イオンのACCの構造及び、安定性に与える影響について、in situの方法である紫外・可視光分光法(UV/Vis)及び、光散乱法(時間分割方式静的光散乱法: TR-SLS,マルチアングル型動的光散乱法: MA-DLS)を用いて検証を行った。さらに、結合状態を詳しく観察するため、ラマン分光法にてex situの測定を行ったほか、Caイオン電極を用いて、ACCの存在時間の評価を併せて行った。重炭酸緩衝により、pH~8.6の条件において、炭酸水素ナトリウム溶液と塩化カルシウム溶液を、過飽和で混合し、ACCを析出させた。PO4イオンは、混合時に炭酸側の溶液に任意の濃度でリン酸水素カリウムを混合することで、濃度を0-50μMの間で調節した。UV/Vis吸光スペクトルは、PO4イオンを含んでいないACCでは、カルサイトに似たスペクトルを示し、PO4イオンの濃度が増大していくにつれ、徐々にバテライトに似たスペクトルへと変化していった。また、この傾向はラマンによるスペクトル観察においても、同様の傾向を示した。さらに、これらの分光法に加え光散乱法によってACCの粒径及び分子量を測定したところ、PO4イオン濃度が増大するにつれて、溶液中に存在するACCは、密度、粒径のいずれも増大した。イオン電極を用いて、ACCの存在時間を測定したところ、PO4濃度が増大するにつれて、ACCの存在時間は指数関数的に増大していくということが示された。PO4イオン存在下において、ACCはバテライトに似た構造を示し、その安定性は増大する。また、この傾向はμMスケールのPO4イオンの変動でも、アモルファスの構造や安定性は大きく変動し、また後発の多形の種類も大きく変化することが考えられる。含PO4ACCは、生物中において炭酸カルシウム組織が形成する場合、共存するPO4イオンの影響を考慮する必要性を示唆することが明らかになった。