日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

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[U-06_28AM1] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 09:00 〜 10:45 503 (5F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、座長:荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)

09:00 〜 09:15

[U06-01] はやぶさ2の統合サイエンス

*小林 直樹1渡邊 誠一郎2はやぶさ2 統合サイエンスチーム 1 (1.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、2.名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)

キーワード:はやぶさ2, 小惑星, 探査, 表層物質, 統合サイエンス, サンプルリターン

はやぶさ2はC型近地球小惑星である1999JU3からサンプルを持ち帰る小惑星探査ミッションである.その搭載科学装置として,近赤外線分光計(NIRS3),中間赤外線カメラ(TIR),可視カメラ(ONC-T),レーザ高度計(LIDAR),サンプラ(SMP),衝突装置(SCI),理学観測用分離カメラ(DCAM-D),小型ランダ(MASCOT)を搭載する.これらの観測装置を駆使して1999JU3の表層物質と表層状態を特定し,最大3つのサンプリング箇所を選定する.地球に帰還するサンプルの分析により,1999JU3上で生じている物理,化学作用を理解すること,その天体の形成から現在に至る迄の歴史を読み解くことを目指している.従って搭載機器を駆使した表面物質と状態の特徴付け戦略ははやぶさ2の科学成果を成功に導く鍵となっている.そこでサンプルリターンミッションをより効果的なものとすべく,はやぶさ2プロジェクトでは統合サイエンスチームを立ち上げ検討してきた.本報告でははやぶさ2の統合サイエンス活動を紹介する.はやぶさ2統合サイエンスチームは2012年12月に発足した.発足時に掲げた目的は以下の通りである:はやぶさ2の科学シナリオの全体像の構築,機器横断的なサイエンステーマの識別と各テーマにおける観測装置の役割を明確にすること,ミッションシナリオにおける科学的制約条件と科学的評価を明確化すること,そしてサイエンスの裾野を広げること即ち「小惑星からの惑星科学」を考え尽くすことである.統合サイエンスチームの議論はプロジェクトメンバーにはオープンな場で行われている.これまでに,リターンサンプルの分析戦略,リモセン機器による小惑星表面の不均質の同定,表面温度推定戦略,クレータ年代学,衝突地形,形状モデル作成法,C型小惑星の反射スペクトル,宇宙風化などを真摯に議論してきた.その成果は「表面物質と状態の切り分け戦略」として論理流れ図として結実している.この図には「基本観測量」,「統合観測量」,「同定できる特徴」,その「指標」および「総合的な推定量」の互いの関係が示されている.図中にはこれらの観測量,推定量への各機器の寄与も明示されている.また,統合サイエンスチームでは衝突装置に関する科学運用に関しても熱心に議論されている.衝突装置は微小重力下での壮大な衝突実験を実現し,また,表面をはぎ取ることで内部の物質を露出させる役割を担う.しかしSCIの運用は探査機のシステムリソースを食う大掛かりなものであり,良く練られた運用プランが必須となっている.作成された論理フロー図ははやぶさ2の科学を成功に導く指針となるものである.それは今後も改訂され,論理的により完備なものと作り込まれる.そのために,論理図を補完する検討や実験などをとりまとめる専門作業グループを設けている.現在は総合試験や機器のキャリブレーション試験など開発フェーズの山場を迎えているため,統合サイエンスの活動をやや落としているが,開発フェーズが終わりに近づくに連れて統合サイエンス活動を活発化させる.はやぶさ2の統合サイエンス活動はその科学ミッションを成功に導く鍵であり,日本における惑星探査を増進させる役割を担うものと考えている.