日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

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[U-07_1AM2] Future Earth - 持続可能な地球へ向けた統合的研究

2014年5月1日(木) 11:00 〜 12:40 501 (5F)

コンビーナ:*氷見山 幸夫(北海道教育大学教育学部)、中島 映至(東京大学大気海洋研究所)、安成 哲三(総合地球環境学研究所)、植松 光夫(東京大学大気海洋研究所)、座長:山形 俊男(海洋研究開発機構 アプリケーションラボ)

12:15 〜 12:40

[U07-08] Future Earthと持続可能な開発目標

*蟹江 憲史1 (1.東京工業大学)

キーワード:Future Earth, 持続可能な開発, 持続可能な開発目標, ポスト2015開発アジェンダ, ガバナンス

ミレニアム開発目標(MDGs)が2015年に達成期限を迎える一方で、2012年の国連持続可能な開発に関する会議(リオ+20)において、全ての国を対象とした「持続可能な開発目標(SDGs)」を策定し、ポスト2015年開発アジェンダに統合することが合意された。これは、MDGsに続く、いわゆる「ポストMDGs」のあり方に関する議論をより複雑化すると考えられている。ただでさえ議論の多い国際開発目標論議に、持続可能な開発という新たな視点を入れることになるからである。両者は一見親和性の高い課題とも考えられるが、実際には、「開発」と「環境」の実務・研究コミュニティー、そして行政区分は分割されており、両者の融合を現実のものとすることには多くの困難が伴うと考えられる。近年の多くの科学的知見は、地球許容量の限界(Planetary Boundary)を指摘しており、既に気候変動、窒素循環、生物多様性等いくつかの分野ではその限界を超えているという知見もある(Rockstrom et al. 2009)。人類世(Anthropocene)という概念は、地球は既に完新世(Holocene)といわれる自然地質時代区分を超えて、地理生態学上において人間が中心的な役割を担うということを提唱した。水不足、異常気象、食糧生産状況の悪化、生物多様性の損失、海面上昇等の新たな課題は、人間開発の基本条件を悪化するリスクを伴う。こうした中、蟹江らの共同研究は、人類世という地球による資源環境制約が開発にとって無視できない時代における持続可能な開発を以下のように定義した。「今日及び将来世代の人類の繁栄を支える地球システムを保ちながら、今日の世代のニーズをみたすような開発」(Griggs et al 2013)。すなわち、すでにいくつかの領域で限界を超えている地球環境破壊の現状が、人類開発の状況の悪化を招いていることを勘案すると、持続可能な開発を経済、社会、環境の3つの対等な柱で構成されていると考えるヨハネスブルグサミット以来の考え方は限界に直面していると言わざるを得ない。21世紀における持続可能な開発は、地球環境をその基本的な必要条件として、その上に経済や社会が成り立っているという重層的な考え方へと転換していく必要がある。従って、SDGsは一方でMDGsの根幹である貧困削減を追求し、他方で地球環境制約を考慮するという二つの基準を統合したものとなる必要がある。こうした概念的複雑性は、SDGsの実現上も課題となる。SDGsを実現する際には、いかにして科学的知見を政策実行の現実に反映していくかという点で、新たな挑戦を伴う。たとえば、気候変動に関する気候変動枠組み条約や生物多様性に関する生物多様性条約といった国際枠組みと、SDGsとの関係はどうなるのか、どのように住み分けを行うのか、既存機関とSDGsとの関係はどうなるのか、といった課題がある。あるいは、モニタリングに関しても、貧困人口などのこれまでMDGsでも行っていた方法に加え、SDGsには、例えば地球システム変化のモニタリング等も含まれることになろう。地球システム変化に対応する人類社会の変化を促す起爆剤がSDGsだとすれば、SDGsの実行は非常に広範にわたり、また、大きな社会システムの変化を伴うものとなる可能性がある。そうなると、実行可能性を確保するためにも、SDGsはその設定過程から、実行に関与することが想定される政策担当者やステークホルダーと協働することが効果的である。いわゆる協働企画(co-design)である。そこからはじめ、協働生産(co-production)、協働提供(co-delivery)を実行することが、SDGs成功の鍵となるといえよう。こうしたトランスディシプリナリーな研究はFuture Earthが推進しようとする研究形態の一つであるが、その格好の先進事例となる潜在性を持っているのがSDGsであると言えよう。