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★ [U08-01] 日本地震学会における東日本大震災対応と学界の災害・環境対応のあり方
1.日本地震学会の体制と東日本大震災後の対応 日本地震学会では、常設委員会として「災害調査委員会」を設置している。東日本大震災時は、現地調査の際に有用な速報的研究結果に関する情報収集を行い、学会のwebサイト上でリンク集として公開した以外は、地震学会としての独自の調査活動は実施していない。災害調査委員会主導で学会独自の現地調査ができなかったことは、委員長として痛恨の極みである。 災害調査委員会の重要な責務のひとつは、地震・津波災害に関する学会間連携の窓口機能であり、東日本大震災後には、連合の環境災害対応委員会での活動とともに、地震工学会等の関連学会との「東北地方太平洋沖地震被害調査連絡会」に参画した。この連絡会は、他の地震災害にも対応するべく、現在では「地震被害調査関連学会連絡会」へと発展している。 別の常設委員会である広報委員会では、以下のような一般・マスコミへの啓発活動を行った: ・一般向け広報紙「なゐふる」における東北地方太平洋沖地震の特集 ・過去の学会広報紙から抜粋した東北地方太平洋沖地震に関係する記事のとりまとめとwebサイトでの公表 ・地震の基礎知識や災害対策等の一般向けに役立ちそうな情報のリンク集の作成とwebサイトでの公表 ・一般からの問い合わせへの直接の回答 ・記者懇談会の開催 ・講演会・取材への講師等派遣依頼への対応 日本学術会議の中では、「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」に参画し、共同声明の採択、連続シンポジウムや学術フォーラムの開催に携わった。2.学界の災害・環境対応のあり方:不可分である災害と地球環境問題 東日本大震災の教訓は「自然災害と地球環境問題は不可分」ということであった。自然災害がきっかけとなった福島における全電源喪失事故の影響で、我が国は火力発電所の稼働率を上げざるをえなくなった。人間活動・経済活動を停滞させないためにはやむを得ない対応であるが、その結果、温室効果ガスの排出量が増すことになり、今度は地球環境問題への取り組みが課題となる。 このような一見異なる問題を統合して捉える目が、今後の地球惑星科学には必要である。そのためには、地球惑星科学界内での連携の推進が必要であることは言うまでもない。さらに、地球惑星科学は人類の繁栄の根幹に関わる学問領域であるとの意識の下、これを持続可能な人間社会の構築に生かすためには、学界外との連携が不可欠である。連合には学界内に留まらず学界外との連携の核としての役目も期待したい。 地震学会における東日本大震災への対応の経験から、緊急時の活動や学会(界)間連携を成功させるためには、平時における周到な準備をいかに整えるかが課題として浮かび上がった。地震学会の災害対応委員会内では、緊急時にどんな体制で誰がどんな調査を行うかのブレインストーミングが全くなされておらず、独自の災害調査ができなかった。また、学会間連携の青写真が描けておらず、連携した行動がいざ始まると対応に苦慮することが多かった。地球惑星科学界内での連携の推進に関しても同じであり、同じ地球惑星科学とは言っても異なる学問的背景をもつ学会間が連携するのは容易なことではない。次の大災害に備えて、平時から連携の準備を整えておくことが大事であり、まず手始めに、東日本大震災を教科書として「災害科学の中の地球環境問題」といったブレインストーミング的な研究会等を立ち上げてはどうか。