日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

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[U-08_2AM1] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2014年5月2日(金) 09:00 〜 10:45 メインホール (1F)

コンビーナ:*松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、石原 正仁(京都大学学際融合教育研究推進センター極端気象適応社会教育ユニット)、小荒井 衛(国土地理院地理地殻活動研究センター地理情報解析研究室)、座長:小荒井 衛(国土地理院地理地殻活動研究センター地理情報解析研究室)

09:30 〜 09:45

[U08-03] 活断層研究・古地震研究の震災における役割と今後の課題

*宍倉 正展1 (1.産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)

キーワード:日本活断層学会, 2011年東北地方太平洋沖地震, 2011年福島県浜通り地震, 活断層研究, 古地震研究

日本活断層学会は 2007年の学会発足以来,おもに活断層が引き起こした地震を対象として災害対応に当たってきた.活断層というと内陸直下型地震の印象を持たれるが,海溝型地震も含めた海域活断層も対象としており,特に古地震学的な観点での研究においては,オン・フォールト,オフ・フォールトにかかわらず活動履歴の解明を行ってきた. 本学会の災害時における対応として重要な活動の1つは,地表地震断層や海岸の変動,津波など,地震に伴う地形・地質学的に現れた諸現象を,現地調査を主体にリモートセンシング等も取り入れて正確に把握することである.これは「現在は過去を解く鍵,過去は未来を測る鍵」として捉えているためであり,modern analogueが活断層研究,古地震研究の基本だからである. 2011年東北地方太平洋沖地震(M 9.0)では,津波の浸水規模などが古地震学的に解明されていた869年貞観地震と類似していたことから,過去の地震,津波を探る研究が注目を浴びるようになった.しかし地震後に行われた現地調査により,津波堆積物の分布と実際の浸水域との違いなど,過去を探り未来を測る上での地形・地質学的な痕跡調査の課題も明るみになった.このほか地震に伴う海岸の沈降現象にも着目すると,海岸段丘が示す変動地形学的にみた長期的な変動との矛盾が未だに解決できていない. その後2011年4月11日に発生した福島県浜通り地震(M 7.0)は,内陸直下を震源とし,明瞭な地表地震断層が出現したため,多くの本学会関係者が現地調査を行った.出現した断層の位置・形状と変位量について詳細にマッピングしたところ,既知の断層である井戸沢断層および湯ノ岳断層とトレースがほぼ一致した.海溝型の巨大地震に誘発されて内陸活断層が活動する可能性は十分あり得ることであったが,両断層とも地震前の評価では,活動性が低く,しかも東北地方では珍しい正断層であったことから,これらが活動することはほとんど考慮されていなかった.実際に地震後に行われた複数の機関によるトレンチ調査においても,1回前の活動はいずれも1万年以上前まで遡り,活動性の低さを物語る.この地震に限らず,近年に国内で発生した内陸活断層による地震は,多くが変動地形学的にみて比較的不明瞭な断層を震源としており,従来の見方では認定しにくい活断層の検出とその評価が大きな課題の一つとなっている. 今回の震災を通して,活断層研究や古地震研究の立場からも様々な課題が改めて浮き彫りになったが,海溝型の超巨大地震にしろ,内陸活断層にしろ,再来間隔の長い地震の過去の活動を解明する上では,地形や地層の痕跡に頼るしか方法がなく,低頻度大規模災害の対策の上で,この分野が今後もますます重要になっていくことは疑いない.社会の期待に十分に応えるために,研究手法の高度化など学術的な議論の場としての学会の役割も非常に大きいと言える.