14:30 〜 14:45
[SSS26-13] 浅部海洋性地殻内の短波長速度不均質構造
キーワード:地震波伝播, 海洋性地殻, 短波長速度不均質構造, 地震波散乱, 地震動計算
観測波形に見られるトラップ波の特徴
茨城県南部の深さ50-60 kmで発生した地震において、微弱な直達波の数秒後に大振幅の後続波が観測されることが報告されている(Hori, 1990, 2006)。この後続波は海洋性地殻を伝播してきたトラップ波と解釈されており、その伝播特性は海洋性地殻内部の不均質構造の影響を受けていると考えられている。
関東・東海地域で得られたHi-netの地震波形記録を詳細に調べたところ、フィリピン海プレートが10-15 kmと浅い地域において紡錘形で不明瞭なトラップP波およびS波が観測された。その他の地域ではパルス的で明瞭なトラップ波が観測されていることから、浅部海洋性地殻の不均質構造が紡錘形のトラップ波の成因と考えられる。
差分法による地震動シミュレーション
パルス的および紡錘形のトラップ波が観測されるそれぞれの測線の断面について2次元差分法による地震動シミュレーションを行い、高周波数トラップ波の伝播特性と不均質構造の関係を調べた。シミュレーションの詳細は武村・他(2014,日本地震学会秋季大会)に従って行い、16 Hzまでの地震動を評価した。
高周波数地震動への地震波散乱の効果を取り込むため、短波長速度不均質構造を導入した。地殻、マントルおよび海洋性マントルについてはTakemura and Yoshimoto(2014)の表4によるパラメータを採用した。海洋性地殻内の短波長不均質構造は紡錘形の波形形状から、相関距離a = 3 km、ゆらぎの強さe = 0.07の指数関数型とa = 1 km, e = 0.07のガウス型を重ねあわせた媒質を仮定した(Takemura and Yoshimoto, 2014)。関東・東海下に沈むこむフィリピン海プレートの海洋性地殻第2層は深さ30-40 kmでの脱水反応により高速化し、深さ40 km以深では均質な構造へ変化していることが指摘されている(武村・他, 2014; Takemura et al., 2015)。そこで、海洋性地殻第2層の高速化と同時に海洋性地殻内の短波長速度不均質構造も消失すると仮定して、その深さZDを30, 40, 50 kmと変化させて地震動シミュレーションを行い、観測波形と比較を行った。
シミュレーションで得られた速度波形を比較すると、ZD = 50 kmではどちらの断面においても紡錘形のトラップ波となってしまい、逆にZD = 30 kmとするとパルス的なトラップ波となる。ZD = 40 kmの時、観測事実を最もよく説明した。
トラップ波の伝播特性と浅部海洋性地殻
紡錘形のトラップ波が観測される断面ではフィリピン海プレートが10-15 kmまで浅くなっており、そのためトラップ波のエネルギーは地殻へ解放されず、海洋性地殻に沿い観測点まで伝播する。そのため、浅部海洋性地殻内の短波長速度不均質構造によりトラップ波の最大振幅が大きく遅延し、紡錘形のトラップ波となった。
脱水反応(30-40 km)以浅の浅部海洋性地殻は多くの含水鉱物が含まれていることが考えられ、流体または含水鉱物による短波長不均質構造の形成が示唆された。
謝辞
防災科学技術研究所のHi-netの速度波形記録およびF-netのCMT解を使用させていただきました。数値シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使わせていただきました。
茨城県南部の深さ50-60 kmで発生した地震において、微弱な直達波の数秒後に大振幅の後続波が観測されることが報告されている(Hori, 1990, 2006)。この後続波は海洋性地殻を伝播してきたトラップ波と解釈されており、その伝播特性は海洋性地殻内部の不均質構造の影響を受けていると考えられている。
関東・東海地域で得られたHi-netの地震波形記録を詳細に調べたところ、フィリピン海プレートが10-15 kmと浅い地域において紡錘形で不明瞭なトラップP波およびS波が観測された。その他の地域ではパルス的で明瞭なトラップ波が観測されていることから、浅部海洋性地殻の不均質構造が紡錘形のトラップ波の成因と考えられる。
差分法による地震動シミュレーション
パルス的および紡錘形のトラップ波が観測されるそれぞれの測線の断面について2次元差分法による地震動シミュレーションを行い、高周波数トラップ波の伝播特性と不均質構造の関係を調べた。シミュレーションの詳細は武村・他(2014,日本地震学会秋季大会)に従って行い、16 Hzまでの地震動を評価した。
高周波数地震動への地震波散乱の効果を取り込むため、短波長速度不均質構造を導入した。地殻、マントルおよび海洋性マントルについてはTakemura and Yoshimoto(2014)の表4によるパラメータを採用した。海洋性地殻内の短波長不均質構造は紡錘形の波形形状から、相関距離a = 3 km、ゆらぎの強さe = 0.07の指数関数型とa = 1 km, e = 0.07のガウス型を重ねあわせた媒質を仮定した(Takemura and Yoshimoto, 2014)。関東・東海下に沈むこむフィリピン海プレートの海洋性地殻第2層は深さ30-40 kmでの脱水反応により高速化し、深さ40 km以深では均質な構造へ変化していることが指摘されている(武村・他, 2014; Takemura et al., 2015)。そこで、海洋性地殻第2層の高速化と同時に海洋性地殻内の短波長速度不均質構造も消失すると仮定して、その深さZDを30, 40, 50 kmと変化させて地震動シミュレーションを行い、観測波形と比較を行った。
シミュレーションで得られた速度波形を比較すると、ZD = 50 kmではどちらの断面においても紡錘形のトラップ波となってしまい、逆にZD = 30 kmとするとパルス的なトラップ波となる。ZD = 40 kmの時、観測事実を最もよく説明した。
トラップ波の伝播特性と浅部海洋性地殻
紡錘形のトラップ波が観測される断面ではフィリピン海プレートが10-15 kmまで浅くなっており、そのためトラップ波のエネルギーは地殻へ解放されず、海洋性地殻に沿い観測点まで伝播する。そのため、浅部海洋性地殻内の短波長速度不均質構造によりトラップ波の最大振幅が大きく遅延し、紡錘形のトラップ波となった。
脱水反応(30-40 km)以浅の浅部海洋性地殻は多くの含水鉱物が含まれていることが考えられ、流体または含水鉱物による短波長不均質構造の形成が示唆された。
謝辞
防災科学技術研究所のHi-netの速度波形記録およびF-netのCMT解を使用させていただきました。数値シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使わせていただきました。