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[SSS25-08] 2011年東日本大震災に伴う死者の年令等依存性(5) 死亡率算定法の再改訂
キーワード:東日本大震災, 年令区分別死亡率, 算定法改訂, 災害弱者
1.前承け
前報までは地震・津波等に伴って発生する急性期の死者について,年令区分別の発生状況を調べ,算定式の構成を行ってきた1).その当初段階では伝統に従って,被災域における年令区分別[死亡者数/母数人口]を基本式としてきた.その結果,この関係式は高令者の死亡実態はよく反映するものの,乳幼児・若年者については過少評価となっている場合が間々あり,年令区分でみた死者発生の実態を正しく評価し得ていないことを例示してきた(周知の片田2)が活用する算定式も上記の伝統手法と同等であり,同様の問題を内蔵している)。そこで, 2つの算定法を新たに導入することで事態の改善を試みた.1つは「平常時,1年間」の年令区分別死者数と対比する尾崎法3)を小改訂したものであり,他の1つは経済学者Senが主唱する『乳幼児.若年者の死亡は,相応の生存ができたならばあったであろう可能性の全てを剥奪するものである4)』との主唱に添う形で“年令の逆数”を重みとする損失量を導入した新しい構成式を提示した.そして,これらの式を活用することで,伝統評価法がもつ問題点のうち,特に乳幼児・若年層に対する評価の是正を試みたものである.
2.年令区分別死亡率の算定法の再改定
本論はこの延長線上にあり,先ず上記の改訂尾崎法がもつ欠点について再度の改訂を行った.すなわち,伝統の算定法では死亡率を最終出力としているのに,前報までの改訂版尾崎式では,縦軸が死者の絶対数を与える形に止まっており,両者の直接対比が出来ないままとなっていた.本報では先ず,この点に注目し,縦軸を死亡率に変換・表示できるよう,さらなる改訂を試みた.その結果,この再改訂版算定法を主体とすること,そして,余命特性損失評価法を適宜介在させることで地震・津波等の災害に伴う急性期の死亡率を年令区分別にみる算定法は一応の到達点に達し得たものと,筆者らは考えている次第である.
以下では,今回得た再改訂版算定式を活用して,県別および市町村別にみた年令依存性についていくつかの考察を行っている.
3.県および市町村単位でみた年令区分別死亡率
1)岩手県/釜石の奇跡
今回の地震津波に対して,東北3県のうち特に岩手県においては乳幼児~若年層の高い生存率がよくいわれている.このことは在来の伝統法によった場合でも,年令区分別平滑化曲線とのズレ(実測値<平滑曲線)を見ることで容易に想像できるところである.つまり,岩手県(詳しくは釜石市と周辺地域)の奇蹟といわれる根拠をあたえている2).しかし,今回得た再改訂版を使って算定し直してみることで「釜石等周辺地域も乳幼児・若年者の,津波による死亡率は平常時・1年間のそれ以下とはとてもいえない」結果となっていることが確認出来る.つまり大方の努力にも拘わらず,この年代の死亡率はなお相当に高いことを示している.同様の結果は,期待特性損失量の算定結果からもハッキリと確認できる.
2)その他の特異変化
同様の視点で,県・市町村別に実際の年令依存性曲線と平滑曲線とのズレに注目してみると,特異事例のいくつかが浮上する.年令を昇順にみていくと,県別のみならず,市町村別にみても多くの場合,20~30代で実測値>平滑値(乳幼児等とは逆のズレ)となるゾーンが目立つ.これは若者~壮年なるが故の対津波公務活動(沿岸域水門の管理とか避難誘導等)に従事した結果のNegativeな反映であろうか.一方,さらに高令者側では3県共に65才前後で死亡率が局所的に急増していることを示すズレ(実測値>平滑曲線)が目立っている.これについては東北沿岸域の家族構成(複数世代の多少等)とか相互支援を考慮することで実態解明への手掛かりが得られることを期待している.
4. 終りに
従来のように,伝統の死者発生率を単純にみた場合,年令に対して右上がりの形,J字型分布の関係が得られ,乳幼児の死亡率が低いようにみえたとしても,視点を変えて平常時のそれと比べてみることで彼らの死亡率が未だ相当に高いことが,今回までの試算で初めて明瞭になった.今回までの成果は,先に得たU字型の分布1)についても,今一度立ち入った考察が必要なことを示唆している.
文献等
1)太田・小山,2011年東日本大震災に伴う人間被害の激甚性(2~4)2013,14年春JpGU大会.
2)片田,人が死なない防災,集英社新書,2012.
3)尾崎,地震災害時および災害後の健康被害,厚生の指標,59,2012.
4)Amatya Sen, WikpediaでSenの項を検索.
前報までは地震・津波等に伴って発生する急性期の死者について,年令区分別の発生状況を調べ,算定式の構成を行ってきた1).その当初段階では伝統に従って,被災域における年令区分別[死亡者数/母数人口]を基本式としてきた.その結果,この関係式は高令者の死亡実態はよく反映するものの,乳幼児・若年者については過少評価となっている場合が間々あり,年令区分でみた死者発生の実態を正しく評価し得ていないことを例示してきた(周知の片田2)が活用する算定式も上記の伝統手法と同等であり,同様の問題を内蔵している)。そこで, 2つの算定法を新たに導入することで事態の改善を試みた.1つは「平常時,1年間」の年令区分別死者数と対比する尾崎法3)を小改訂したものであり,他の1つは経済学者Senが主唱する『乳幼児.若年者の死亡は,相応の生存ができたならばあったであろう可能性の全てを剥奪するものである4)』との主唱に添う形で“年令の逆数”を重みとする損失量を導入した新しい構成式を提示した.そして,これらの式を活用することで,伝統評価法がもつ問題点のうち,特に乳幼児・若年層に対する評価の是正を試みたものである.
2.年令区分別死亡率の算定法の再改定
本論はこの延長線上にあり,先ず上記の改訂尾崎法がもつ欠点について再度の改訂を行った.すなわち,伝統の算定法では死亡率を最終出力としているのに,前報までの改訂版尾崎式では,縦軸が死者の絶対数を与える形に止まっており,両者の直接対比が出来ないままとなっていた.本報では先ず,この点に注目し,縦軸を死亡率に変換・表示できるよう,さらなる改訂を試みた.その結果,この再改訂版算定法を主体とすること,そして,余命特性損失評価法を適宜介在させることで地震・津波等の災害に伴う急性期の死亡率を年令区分別にみる算定法は一応の到達点に達し得たものと,筆者らは考えている次第である.
以下では,今回得た再改訂版算定式を活用して,県別および市町村別にみた年令依存性についていくつかの考察を行っている.
3.県および市町村単位でみた年令区分別死亡率
1)岩手県/釜石の奇跡
今回の地震津波に対して,東北3県のうち特に岩手県においては乳幼児~若年層の高い生存率がよくいわれている.このことは在来の伝統法によった場合でも,年令区分別平滑化曲線とのズレ(実測値<平滑曲線)を見ることで容易に想像できるところである.つまり,岩手県(詳しくは釜石市と周辺地域)の奇蹟といわれる根拠をあたえている2).しかし,今回得た再改訂版を使って算定し直してみることで「釜石等周辺地域も乳幼児・若年者の,津波による死亡率は平常時・1年間のそれ以下とはとてもいえない」結果となっていることが確認出来る.つまり大方の努力にも拘わらず,この年代の死亡率はなお相当に高いことを示している.同様の結果は,期待特性損失量の算定結果からもハッキリと確認できる.
2)その他の特異変化
同様の視点で,県・市町村別に実際の年令依存性曲線と平滑曲線とのズレに注目してみると,特異事例のいくつかが浮上する.年令を昇順にみていくと,県別のみならず,市町村別にみても多くの場合,20~30代で実測値>平滑値(乳幼児等とは逆のズレ)となるゾーンが目立つ.これは若者~壮年なるが故の対津波公務活動(沿岸域水門の管理とか避難誘導等)に従事した結果のNegativeな反映であろうか.一方,さらに高令者側では3県共に65才前後で死亡率が局所的に急増していることを示すズレ(実測値>平滑曲線)が目立っている.これについては東北沿岸域の家族構成(複数世代の多少等)とか相互支援を考慮することで実態解明への手掛かりが得られることを期待している.
4. 終りに
従来のように,伝統の死者発生率を単純にみた場合,年令に対して右上がりの形,J字型分布の関係が得られ,乳幼児の死亡率が低いようにみえたとしても,視点を変えて平常時のそれと比べてみることで彼らの死亡率が未だ相当に高いことが,今回までの試算で初めて明瞭になった.今回までの成果は,先に得たU字型の分布1)についても,今一度立ち入った考察が必要なことを示唆している.
文献等
1)太田・小山,2011年東日本大震災に伴う人間被害の激甚性(2~4)2013,14年春JpGU大会.
2)片田,人が死なない防災,集英社新書,2012.
3)尾崎,地震災害時および災害後の健康被害,厚生の指標,59,2012.
4)Amatya Sen, WikpediaでSenの項を検索.