18:15 〜 19:30
[SSS31-P04] GPS速度データより推定される九州地方のひずみ速度場
キーワード:地殻変動, ひずみ速度, 高ひずみ速度領域, 非弾性変形, 九州地方, フィリピン海プレート
西南日本下には,フィリピン海プレートが沈み込み,四国地方沖合でM8クラスの海溝型地震を約100~150年周期で発生させている(Ando, 1975).一方,九州地方では,M7クラスの海溝型地震が約20~30年周期で発生している(Yoshioka, 2007).また,豊後水道では,スロースリップが約6~7年周期で発生している(Ozawa et al., 2013).これらの違いは,同じ南海トラフ沿いの沈み込み帯である四国・九州地方での,プレート境界面の摩擦特性の違いを反映し(Hirose and Maeda, 2013),ひずみの蓄積・解放プロセスが異なることを示していると考えられる.さらに,沖縄トラフの拡大(Nishimura and Hashimoto, 2006)も,九州地方の地殻変動場を複雑化させる要因である.Takayama and Yoshida (2007)は,同領域の地殻変動場を複雑にする要因について,1998~2002年に観測されたGPS速度データより検討を行った.その中で彼らは,北緯32°付近でGPS速度場の東西成分に約5 mm/yr程度の速度差が存在し,M5~6クラスの地震が発生していることを指摘するとともに,この速度差は,左横ずれセンスで,同領域で発生した地震のメカニズム解と調和的であることを示した.しかし,同領域にはこのような左横ずれセンスを有する明瞭な活断層は認められていない.このことは,この地殻変動が地質学的に最近の時代に開始したことを示唆している.また,九州地方には第四紀火山が多数存在し,プレート沈み込みに伴う弾性変形のみならす,高温による非弾性変形が生じている可能性(Noda and Matsu'ura, 2010)も十分に考えられる.したがって,ひずみ速度場の定量的把握は,サイスミックポテンシャル(断層の固着領域の広さや深さなどの情報)を評価する上でも重要であると考えられる.本研究では,九州地方で進行している現行地殻変動の要因を明らかにし,将来の変化を推定するための手法を構築するために,同領域での地殻変動の運動学的解釈を第一の目的,変動源の推定を第二の目的とし,GPS速度データよりひずみ速度場の推定を行った.
本研究では,まず,国土地理院のGPS連続観測網(GEONET)のF3解(中川ほか,2009)を基に,アンテナ交換,地震時のオフセット,年周・半年周を除去した平均変位速度を求めた.続いて,Shen et al. (1996)の方法で,平均変位速度よりひずみ速度を推定した.ここでは,1つのGPS観測点に対して直径50 km以内に含まれる観測点の平均変位速度を用いて観測点近傍でのひずみ速度を求め,対象領域全体のひずみ速度と剛体運動を最小二乗法により推定した.さらに,観測点間隔を考慮し,得られたひずみ速度を20 kmごとに補間し出力した.解析には,Takayama and Yoshida (2007)と同一の非定常イベントが比較的少ない期間のデータを用いた.この結果,推定した九州地方における面積ひずみ速度,せん断ひずみ速度及びひずみ速度の主軸分布において,以下の特徴が認められた.
(1) 鹿児島県西部から宮崎県東部(北緯32°付近)にかけて,幅約50 kmで,約1.2×10-7/yrのせん断ひずみ速度を示す,高ひずみ速度領域が認められる.
(2) 九州北部及び中部の短縮軸は,太平洋沿岸付近で東南東-西北西を示し,背弧側に向かうにつれて反時計回りに回転する.また,短縮ひずみ速度は,0.3~2.1×10-7/yr程度で,背弧に向かうにつれて減少する.
(3) 九州南部における短縮軸は,東北東-西南西方向を示し,背弧側で最大の短縮ひずみ速度(1.3×10-7/yr)を示す.
結果(1)で述べた観測値に対して,高ひずみ速度領域下に横ずれ断層を仮定し,5 mm/yrの相対運動速度を与えて固着域の深さを見積もると,地表から深さ約5 kmまでが固着している結果が得られた.結果(2)と(3)については,広域に及ぶ地殻変動であることが予想されるため,プレートの沈み込みや背弧拡大を考慮した解析が必要となる.これらの結果をふまえ,今後は,より高い空間分解能で高ひずみ速度領域の特性を把握するとともに,プレート境界で発生する地震など外的な要因が高ひずみ速度領域に及ぼす影響の評価を行う.
本研究は,平成26年度地層処分技術調査等事業「地質環境長期安定性評価確証技術開発」(経済産業省資源エネルギー庁)で得られた成果の一部を使用した.
本研究では,まず,国土地理院のGPS連続観測網(GEONET)のF3解(中川ほか,2009)を基に,アンテナ交換,地震時のオフセット,年周・半年周を除去した平均変位速度を求めた.続いて,Shen et al. (1996)の方法で,平均変位速度よりひずみ速度を推定した.ここでは,1つのGPS観測点に対して直径50 km以内に含まれる観測点の平均変位速度を用いて観測点近傍でのひずみ速度を求め,対象領域全体のひずみ速度と剛体運動を最小二乗法により推定した.さらに,観測点間隔を考慮し,得られたひずみ速度を20 kmごとに補間し出力した.解析には,Takayama and Yoshida (2007)と同一の非定常イベントが比較的少ない期間のデータを用いた.この結果,推定した九州地方における面積ひずみ速度,せん断ひずみ速度及びひずみ速度の主軸分布において,以下の特徴が認められた.
(1) 鹿児島県西部から宮崎県東部(北緯32°付近)にかけて,幅約50 kmで,約1.2×10-7/yrのせん断ひずみ速度を示す,高ひずみ速度領域が認められる.
(2) 九州北部及び中部の短縮軸は,太平洋沿岸付近で東南東-西北西を示し,背弧側に向かうにつれて反時計回りに回転する.また,短縮ひずみ速度は,0.3~2.1×10-7/yr程度で,背弧に向かうにつれて減少する.
(3) 九州南部における短縮軸は,東北東-西南西方向を示し,背弧側で最大の短縮ひずみ速度(1.3×10-7/yr)を示す.
結果(1)で述べた観測値に対して,高ひずみ速度領域下に横ずれ断層を仮定し,5 mm/yrの相対運動速度を与えて固着域の深さを見積もると,地表から深さ約5 kmまでが固着している結果が得られた.結果(2)と(3)については,広域に及ぶ地殻変動であることが予想されるため,プレートの沈み込みや背弧拡大を考慮した解析が必要となる.これらの結果をふまえ,今後は,より高い空間分解能で高ひずみ速度領域の特性を把握するとともに,プレート境界で発生する地震など外的な要因が高ひずみ速度領域に及ぼす影響の評価を行う.
本研究は,平成26年度地層処分技術調査等事業「地質環境長期安定性評価確証技術開発」(経済産業省資源エネルギー庁)で得られた成果の一部を使用した.