日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL39] 地球年代学・同位体地球科学

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

09:45 〜 10:00

[SGL39-04] 九重火山中部地域の感度法K-Ar年代

*山崎 誠子1星住 英夫1松本 哲一1 (1.産総研 活断層・火山研究部門)

キーワード:九重火山, K-Ar年代測定, 感度法

感度法によるK-Ar年代測定では,アルゴン初生比の質量分別補正が可能であり,特に50万年より若い火山岩試料に対しても信頼性の高い年代値が報告されてきた.本研究では,九重火山中部地域に分布する扇ヶ鼻,中岳,三俣山火山(松の台岩屑なだれ堆積物)から採取した火山岩試料について感度法によるK-Ar年代測定を実施した.Ar同位体の測定はMM5400Ar型希ガス質量分析計を用い,K定量はアサヒ理化製FP-33D型炎光光度計を用いてリチウムを添加する内部標準法により実施した. 
 九重火山は地形的に西部,中部,東部に区分され,大まかに西部が古く,東部が新しい.活動ステージは4つに区分され,九重火山の活動開始から飯田火砕流噴火の前までの第1期,飯田火砕流の噴火活動である第2期,中部の多くの山体と東部の山体基底部を形成した第3期,及び東部での苦鉄質マグマの噴出から現在までの第4期である(川辺ほか,2015).これまで従来法の同位体希釈法(星住ほか,2013)及び感度法(山﨑ほか,2014)によるK-Ar年代測定から,主に第1期の活動史が明らかにされてきた.それらによると,約200 kaに最も西に位置する猟師山から九重火山の活動が開始し,約150 kaに中部の基底部を構成する沓掛山と硫黄山が形成された.その後,西部の黒岩山と中部の鳴子山が約90 kaに形成され,活動が中部に移ってきたと考えられる.
 中部の火山体の大部分は,54 ka(14C年代;奥野ほか,2013)に起きた九重火山最大の飯田火砕流噴火より後に形成され,扇ヶ鼻火山(扇ヶ鼻,岩井川岳,肥前ヶ城など),中岳火山(中岳,久住山,稲星山など),三俣山火山,星生山火山などから構成されている(川辺ほか,2015).中部の火山体については,同位体希釈法によるK-Ar年代測定を適用するには,予想年代が若いこともあり,これまで年代未詳の部分も多かったが,最近では熱ルミネッセンス(TL)年代等により活動史が明らかになりつつある.
 扇ヶ鼻火山については,南斜面の溶岩(扇ヶ鼻南溶岩)の上流部から34±3(1σ水準)kaの年代が得られた.この年代はTL年代(34〜37 ka;奥野ほか,2013)とよく一致し,地質層序とも矛盾はない.一方,同溶岩の下流部の試料からは65±8 kaの年代が得られ,上流部に比べ誤差の範囲を超えて古く,むしろ,隣接する岩井川岳溶岩のTL年代(60〜70 ka;奥野ほか,2013)に近かった.このことから,扇ヶ鼻南溶岩は,噴出年代の異なる複数の溶岩から構成されている可能性がある.
 中岳火山の一部である稲星山の溶岩からは,層序に一致する46±12 kaの年代が得られ,飯田火砕流とほぼ同時期,もしくは,すぐ後の活動で形成したと考えられる.
 三俣山火山の北方に分布する松の台岩屑なだれ堆積物は三俣山起源と考えられ,その全岩化学組成も三俣山の噴出物と類似する.松の台岩屑なだれ堆積物中の岩塊のK-Ar年代を測定したところ,36±12 kaの年代が得られた.この年代は同堆積物中の木片の14C年代(約20 ka;川辺ほか,2014)と誤差の範囲で一致し,松の台岩屑なだれが,三俣山火山成長中に発生したとの地質層序(川辺ほか,2015)と矛盾しない.今後,三俣山火山から採取した試料のK-Ar年代測定も実施予定であるが,今回の年代測定の結果から,九重火山の中部では,飯田火砕流が噴出した後の約54〜30 kaの間に,複数の山体を形成するような活動があったと考えられる.