日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 304 (3F)

コンビーナ:*小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)

09:30 〜 09:45

[SVC46-10] 御嶽山2014年噴火から示唆される水蒸気噴火の発生機構のモデル

*井田 喜明1 (1.アドバンスソフト株式会社)

キーワード:水蒸気噴火, 水蒸気爆発, 御嶽山, 火砕流, 地殻変動, 数値シミュレーション

2014年9月27日に御嶽山の山頂で水蒸気噴火(水蒸気爆発)が発生し、噴煙に巻き込まれたり噴石の直撃を受けたりして登山者など50名以上が亡くなった。水蒸気噴火はどこの火山でもよく起こる現象であるが、相対的に噴火の規模が小さいこともあって、マグマを噴出する噴火に比べて発生機構の理解が遅れている。今回の御嶽山噴火ではビデオ映像、地殻変動、地震活動など、噴火の発生過程を究明する上で貴重なデータが得られた。本論文はこれらのデータを考慮して水蒸気噴火の発生機構を探り、噴火過程をシミュレーションするためのモデルを提案する。
御嶽山山頂の南東側に設定された国土交通省滝超観測点のビデオカメラには、噴出点の真上には雲がかかっているものの、噴火が開始した9月27日11時55分前後の噴火映像が見事に記録されている。噴火は噴気がかすかにたなびく状態で突然始まり、黒みがかった水蒸気を激しく噴出した。噴出気体はまず火砕流として火口から広がって3kmほど流下し、数分後に上昇に転じて噴煙となった。レーダー観測によると、噴煙は火口から8 kmもの高さに達した。同日午後に上空からヘリコプターで撮られた映像によると、14時頃には噴出が弱まり、水蒸気が数か所の噴出孔から分離して上昇するのが見分けられた。
ビデオ映像に捉えられた噴火開始直後の噴出気体は、色が濃くて火砕流として流れ下ったことから見て、多量の固体粒子を含んで密度が大気より高かった。噴火が多数の噴石を飛ばし、地面が火山灰に厚く覆われた事実もそれを裏付ける。噴出気体は、固体粒子を堆積して軽くなってから、上昇に転じて噴煙となったと解釈できる。固体粒子は噴出時に噴出孔の浸食でつくられたものだろうから、噴出孔が浸食されて拡大したことが激しい噴出をもたらしたと推測できる。
噴火の発生過程を探るためのもうひとつの重要な観測データに、気象庁田の原観測点で得られた傾斜変化がある。このデータによると、噴火開始の7分ほど前から噴火発生地点の地下で膨張が進行し、噴火による気体の噴出とともに膨張が徐々に解消された。
噴火発生源の膨張は地下水が蒸発して水蒸気が増えたことが原因だろうが、単純な蒸発はすぐに圧力増加に進行を抑制されるから膨張には結びつかない。噴火発生源の膨張は、重力下で何らかの物質が上昇するときによく起こる。ここでは、地下水の底で生まれた水蒸気が表面まで上昇する間に進行する膨張を考える。膨張を示す傾斜変動の開始時に顕著な地震活動は見られないから、深部から供給された熱によって地下水の底で不安定が起こり、急に沸騰が始まって気泡を生み出したと想定する。
以上の考えを定量化して、地下水系で水蒸気噴火が発生する過程をモデル化する。地下水系は下部の地下水と上部の水蒸気からなり、接触面では蒸発曲線に沿う熱力学的な平衡が成り立つものとする。地下水の底で生ずる水蒸気の流量は、外部条件として時間の関数として設定する。日常的な噴気や噴火時の激しい噴出は、地下水系を覆う岩板を水蒸気が浸透流として通り抜ける過程で表現する。浸食による噴出孔の拡大は浸透率の増加で表現し、浸透率が変化する速度は噴出流量と浸透率の適当な関数として設定する。
このモデルでは、圧力や噴出流量などの変数の時間変化は、保存則や熱力学的な関係から導かれる連立常微分方程式から計算される。計算に関与する定数、関数、初期値を適当に調整すると、噴火前の膨張から急激な噴出に至る水蒸気噴火の発生過程を定性的に説明する解が求まり、定数の値や浸透率の関数形が実際の噴火の進行に合うように制約される。