14:30 〜 14:45
[PPS23-02] 月の最後の海の火成活動と表面地形との関係
キーワード:チタン含有量, スーパーホットプルーム, セレノイド, 有効弾性厚, 月マントル, PKT
月のマグマオーシャンからの固化過程やその後の内部の大規模な構造変化の有無を理解する上で,月の海の玄武岩の組成を調べることは有効である.玄武岩の組成と年代との関係からマントルの水平・鉛直方向の組成に関する情報が得られる可能性があり,それによって月マントルの進化モデルを制約できると期待される.
月の海を構成する溶岩流の噴出年代とチタン含有量の関係を調査したこれまでの我々の研究から,約23億年前を境にしてチタン含有量が有意に上昇していることが分かっている.このチタン含有量の違いはマグマソースの違いであると考えられ,23億年前以前を「Phase-1火成活動」,23億年前以後を「Phase-2火成活動」と呼ぶこととする.そして,Phase-2火成活動は嵐の大洋・雨の海の一部の領域で短期間に集中して起きていること,選択的に高いチタン含有量であることから,月深部に起源を持つスーパーホットプルームによるものであるという仮説を提唱している.
もしスーパーホットプルームが起こったとすると,それに伴う何らかの地形的な痕跡が残されている可能性がある.そこで地形とセレノイドとの差をとってみると,嵐の大洋・雨の海領域の中心で直径約1000km,高さ500mの円形の台地状の地形が観測された.またこの台地はPhase-2の火成活動の中心地とよく一致している.また,この領域のリッジの成因や走向の解釈は今まではっきりしなかったが,台地状地形の位置と照らしあわせてみると,台地状地形に関係して分布していると解釈できる.このことから台地状地形の成因はPhase-2活動と強く関係していることが示唆される.
このような台地状地形がスーパーホットプルームによって作られ、現在もそれが保存されていると仮定すると,この地形をうまく説明するモデルを構築することでプルームの物理量が推定できるのではないかと考えた.本研究では,プルームの浮力が弾性リソスフェアを押して鉛直上向きに変形するというモデルを考え,Solomon and Head [1979]の手法を用いて,観測された台地状地形プロファイルの台地の端の傾斜をよく説明するプルームの浮力・半径,弾性リソスフェアの厚さを決定した.このとき求められた弾性リソスフェアの厚さは20–30kmであった.
Solomon and Head [1980]では弾性リソスフェアにかかる荷重によってできるたわみを計算し,月の海の地域のたわみを説明する弾性リソスフェアの厚さを定量的に評価した.これによると,Mare Imbriumの下のリソスフェアの弾性リソスフェアの厚さは50–75kmであったとされている.大部分のマグマ噴出は Phase-1火成活動期に起こっていることを考えると,この50–75kmという弾性リソスフェアの厚さは〜30億年前のリソスフェアの厚さであると考えられる.一方で,本研究で得られた20–30kmの薄い弾性リソスフェアの厚さはPhase-2火成活動期のものであり,〜20億年前にそれ以前よりも温度勾配が一時的に大きくなったことを意味する.これはPhase-2火成活動のマグマが非常に高温であり,リソスフェアの下面の温度が上昇して,弾性リソスフェアの厚さが薄くなったためだと考えられる.Phase-2火成活動のマグマが高温であったことは,そのソースが深部起源とするスーパープルーム仮説と整合的である.
一方で,台地状地形を現在に保存する機構はまだ分かっていない.台地状地形周辺の下の地殻厚データをみると,パッチ状に地殻厚が厚い領域があることがわかった.このことから,台地状地形の地下はアイソスタシー的になっていると考えられる.しかしながら,詳細に空間分布を見ると地殻が厚い領域は台地の南側に偏っており,短波長での変化が見られることから,台地状地形の形成とは別のプロセスで地殻が厚くなったと考えられる.台地状地形を現在に保存し,地殻の厚みを説明するモデルとして,Phase-2火成活動の終盤におけるシリカリッチなマグマの地殻への付加の効果が挙げられる.本発表では,重力データと地形データとの相関解析も含めた,台地状地形の地下構造についての議論を行うとともに,Phase-2火成活動と台地状地形の関係について考察する.
月の海を構成する溶岩流の噴出年代とチタン含有量の関係を調査したこれまでの我々の研究から,約23億年前を境にしてチタン含有量が有意に上昇していることが分かっている.このチタン含有量の違いはマグマソースの違いであると考えられ,23億年前以前を「Phase-1火成活動」,23億年前以後を「Phase-2火成活動」と呼ぶこととする.そして,Phase-2火成活動は嵐の大洋・雨の海の一部の領域で短期間に集中して起きていること,選択的に高いチタン含有量であることから,月深部に起源を持つスーパーホットプルームによるものであるという仮説を提唱している.
もしスーパーホットプルームが起こったとすると,それに伴う何らかの地形的な痕跡が残されている可能性がある.そこで地形とセレノイドとの差をとってみると,嵐の大洋・雨の海領域の中心で直径約1000km,高さ500mの円形の台地状の地形が観測された.またこの台地はPhase-2の火成活動の中心地とよく一致している.また,この領域のリッジの成因や走向の解釈は今まではっきりしなかったが,台地状地形の位置と照らしあわせてみると,台地状地形に関係して分布していると解釈できる.このことから台地状地形の成因はPhase-2活動と強く関係していることが示唆される.
このような台地状地形がスーパーホットプルームによって作られ、現在もそれが保存されていると仮定すると,この地形をうまく説明するモデルを構築することでプルームの物理量が推定できるのではないかと考えた.本研究では,プルームの浮力が弾性リソスフェアを押して鉛直上向きに変形するというモデルを考え,Solomon and Head [1979]の手法を用いて,観測された台地状地形プロファイルの台地の端の傾斜をよく説明するプルームの浮力・半径,弾性リソスフェアの厚さを決定した.このとき求められた弾性リソスフェアの厚さは20–30kmであった.
Solomon and Head [1980]では弾性リソスフェアにかかる荷重によってできるたわみを計算し,月の海の地域のたわみを説明する弾性リソスフェアの厚さを定量的に評価した.これによると,Mare Imbriumの下のリソスフェアの弾性リソスフェアの厚さは50–75kmであったとされている.大部分のマグマ噴出は Phase-1火成活動期に起こっていることを考えると,この50–75kmという弾性リソスフェアの厚さは〜30億年前のリソスフェアの厚さであると考えられる.一方で,本研究で得られた20–30kmの薄い弾性リソスフェアの厚さはPhase-2火成活動期のものであり,〜20億年前にそれ以前よりも温度勾配が一時的に大きくなったことを意味する.これはPhase-2火成活動のマグマが非常に高温であり,リソスフェアの下面の温度が上昇して,弾性リソスフェアの厚さが薄くなったためだと考えられる.Phase-2火成活動のマグマが高温であったことは,そのソースが深部起源とするスーパープルーム仮説と整合的である.
一方で,台地状地形を現在に保存する機構はまだ分かっていない.台地状地形周辺の下の地殻厚データをみると,パッチ状に地殻厚が厚い領域があることがわかった.このことから,台地状地形の地下はアイソスタシー的になっていると考えられる.しかしながら,詳細に空間分布を見ると地殻が厚い領域は台地の南側に偏っており,短波長での変化が見られることから,台地状地形の形成とは別のプロセスで地殻が厚くなったと考えられる.台地状地形を現在に保存し,地殻の厚みを説明するモデルとして,Phase-2火成活動の終盤におけるシリカリッチなマグマの地殻への付加の効果が挙げられる.本発表では,重力データと地形データとの相関解析も含めた,台地状地形の地下構造についての議論を行うとともに,Phase-2火成活動と台地状地形の関係について考察する.