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[BPT23-03] 失われた貯蔵庫の主成分元素組成と初期地球の分化
キーワード:隠された貯蔵庫, 142Nd/144Nd, 冥王代, ソリダスメルト, 融解実験
地球はコンドライト質の材料物質が集積し、形成したと考えられている。そのため、マントル・地殻の総和(bulk silicate Eartt: BSE)は、難揮発性かつ核に入らない親石元素において、コンドライト的な存在度を持つはずである。しかしながら一部の親石元素において、現在手に入る地球の珪酸塩部分(accessible silicate Earth: ASE)はコンドライトと異なる同位体比や微量元素比を持つことが明らかになってきた(例えば142Nd/144Nd, Nb/Ta)。したがってBSEをコンドライト質と考えるならば、ASEとコンドライトの差を説明する貯蔵庫が、未だ発見されず何処かに存在しているはずである。このような未発見の貯蔵庫が「失われた貯蔵庫」と呼ばれている。142Nd/144Ndにおいては、ASEがコンドライトよりも有意に高い値を持つことが明らかになっている(Boyet & Carlson, 2005)。SmはNdよりも液相濃集性が弱く、142Ndの親核種146Smは半減期の短い(6800万年)消滅核種である。ゆえに、ASEとコンドライト間の142Nd/144Ndの差は、地球史の初期に146Sm/144Ndの小さなメルトが分化し、その後マントル対流から孤立していることを示唆している。これまで幾つもの先行研究がこの失われた貯蔵庫の形成とゆくえについてシナリオを提案してきた(Boyet & Carlson, 2005; Lee et al., 2007; Labrosse et al., 2007; Korenaga et al., 2009; Nebel et al., 2010)が、いまだ決定的なシナリオは現れていない。その理由のひとつは、失われた貯蔵庫のゆくえを知るには、その元となったメルトのマントル中での浮沈が重要となるにもかかわらず、そのメルト密度が制約されていないことである。密度は主成分元素組成に依存する。ゆえに、本研究では失われた貯蔵庫の主成分元素組成を推定し、その密度を計算した。そして、失われた貯蔵庫の形成とゆくえについて、より有りうるシナリオを提案する。
我々はKondo & Kogiso (2014)において、ASEとコンドライト間の142Nd/144Ndの差から両者間のSm/Ndの差を求め、このSm/Ndの差をつくるような失われた貯蔵庫の形成年代と部分融解度を推定した。推定された形成年代は太陽系形成から3350万年以内、そして部分融解度は上部マントル圧力において極微小(1 GPa: <2.8%, 3 GPa: <2.5%、7 GPa: <1.0%)となった。本研究では、その微小な部分融解度のメルト(ソリダスメルト)の主成分元素組成を未分化カンラン岩の融解実験を用いて決定した。初期地球ではマントルは現在よりも高温であることが予想されるため、高温高圧でのソリダスメルト組成を知ることが必要となる。しかし、3 GPa 以上でソリダスメルト組成を決定した先行研究はない。そのため、我々はHirschmann & Dasgupta (2007)が提唱した修正版繰り返しサンドイッチ法(Modified Iterative Sandwich Experiment: MISE)を行い、7 GPaでのソリダスメルト組成を決定した。結果として、ソリダスメルト組成は鉄に富むコマチアイト組成であることが明らかとなった。そして、我々はこの主成分元素組成を用い、Matsukage et al. (2005)の手法で7 GPa ソリダスメルトの密度を計算した。結果、ソリダスメルトの密度は未分化カンラン岩の密度よりも小さくなった。ゆえに、7 GPaソリダスメルトはマントル中を上昇する。また、本研究で推定した失われた貯蔵庫の形成年代は、先行研究で推定された最後の巨大衝突の年代よりも早い。巨大衝突は全マントルを融解させると考えられており、失われた貯蔵庫がマントル内部で孤立していた場合、失われた貯蔵庫も融解し周囲のマントルと混ざり合ってしまう可能性が高い。したがって、より有りうるシナリオは次のようになる。初期地球において、高温高圧で形成されたソリダスメルトはマントル中を上昇し、コマチアイト地殻を形成した。そしてそのコマチアイト質地殻は巨大衝突時に宇宙空間へと飛び散り、地球から失われた。こうして、ASEはコンドライトとは異なる組成を持つようになった。
我々はKondo & Kogiso (2014)において、ASEとコンドライト間の142Nd/144Ndの差から両者間のSm/Ndの差を求め、このSm/Ndの差をつくるような失われた貯蔵庫の形成年代と部分融解度を推定した。推定された形成年代は太陽系形成から3350万年以内、そして部分融解度は上部マントル圧力において極微小(1 GPa: <2.8%, 3 GPa: <2.5%、7 GPa: <1.0%)となった。本研究では、その微小な部分融解度のメルト(ソリダスメルト)の主成分元素組成を未分化カンラン岩の融解実験を用いて決定した。初期地球ではマントルは現在よりも高温であることが予想されるため、高温高圧でのソリダスメルト組成を知ることが必要となる。しかし、3 GPa 以上でソリダスメルト組成を決定した先行研究はない。そのため、我々はHirschmann & Dasgupta (2007)が提唱した修正版繰り返しサンドイッチ法(Modified Iterative Sandwich Experiment: MISE)を行い、7 GPaでのソリダスメルト組成を決定した。結果として、ソリダスメルト組成は鉄に富むコマチアイト組成であることが明らかとなった。そして、我々はこの主成分元素組成を用い、Matsukage et al. (2005)の手法で7 GPa ソリダスメルトの密度を計算した。結果、ソリダスメルトの密度は未分化カンラン岩の密度よりも小さくなった。ゆえに、7 GPaソリダスメルトはマントル中を上昇する。また、本研究で推定した失われた貯蔵庫の形成年代は、先行研究で推定された最後の巨大衝突の年代よりも早い。巨大衝突は全マントルを融解させると考えられており、失われた貯蔵庫がマントル内部で孤立していた場合、失われた貯蔵庫も融解し周囲のマントルと混ざり合ってしまう可能性が高い。したがって、より有りうるシナリオは次のようになる。初期地球において、高温高圧で形成されたソリダスメルトはマントル中を上昇し、コマチアイト地殻を形成した。そしてそのコマチアイト質地殻は巨大衝突時に宇宙空間へと飛び散り、地球から失われた。こうして、ASEはコンドライトとは異なる組成を持つようになった。