日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG32] 熱帯におけるマルチスケール大気海洋相互作用現象

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 202 (2F)

コンビーナ:*時長 宏樹(京都大学防災研究所・白眉センター)、長谷川 拓也(独立行政法人海洋研究開発機構)、清木 亜矢子(海洋研究開発機構)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、名倉 元樹((独) 海洋研究開発機構)、大庭 雅道(電力中央研究所 環境科学研究所 大気海洋環境領域)、今田 由紀子(東京大学大気海洋研究所)、座長:東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、清木 亜矢子(海洋研究開発機構)、長谷川 拓也(独立行政法人海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[ACG32-15] 熱帯太平洋自然変動による地球温暖化の停滞と加速

*小坂 優1謝 尚平2 (1.東京大学先端科学技術研究センター、2.カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所)

キーワード:熱帯太平洋十年規模変動, エルニーニョ・南方振動, 貿易風, 全球気候, 遠隔影響

今世紀初め頃からの全球年平均気温上昇の停滞(地球温暖化のハイエイタス)に対し様々な要因が提唱されてきた.我々は過去の研究で,気候モデルを歴史的放射強制に加えて熱帯太平洋海面水温を観測履歴に強制的に一致させるPacific Ocean-Global Atmosphere(POGA)実験を行い,近年のハイエイタス期間を含む1970年以降の全球年平均気温変動を相関係数0.97に達する高い精度で再現した.この結果は熱帯太平洋における十年規模のラニーニャ的海面水温低下傾向と放射強制による昇温の相殺によって現在のハイエイタスが起こっていることを示す.
過去を振り返ると,全球平均気温は顕著な年々変動および十年規模変動を伴って上昇してきた.本研究はPOGA実験を19世紀後半にまで遡って行い,放射強制と熱帯太平洋変動の2パラメータ系が全球気候変動の歴史をどれだけ再現するか検証した.この長期POGA実験は1870年以降の全球年平均気温変動を相関係数0.96で,またその15年変化傾向を相関係数0.80で再現する.全球気温変化傾向を放射強制に対する応答と熱帯太平洋変動の寄与に分解すると,熱帯太平洋変動は1890年代後半から1910年頃までの全球寒冷化の主要因であり,1910年代から40年代の第1次昇温期を加速し,40年代半ばから70年代半ばまでの大停滞期の開始を早め終了を遅らせ,70年代後半から90年代の第2次昇温期の前半の期間の昇温を加速した.これら熱帯太平洋変動の寄与が大きい期間について,POGA実験は特に熱帯インド洋・インド・南北太平洋・北米で観測された地域的変化傾向を捉える.熱帯太平洋低温化による近年の全球寒冷化傾向は20世紀初頭のものと同程度であるが,その持続期間の長さは過去150年に例がない.また1990年代以降の貿易風の強化傾向は過去150年間で最も強い.これらの意味で,今世紀初頭のハイエイタスは前例のない事例であると言える.