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[SCG57-P12] 東北日本下の地震波速度異常領域による2011年東北沖地震の地殻変動への影響
キーワード:2011年東北沖地震, 地殻変動, 有限要素モデリング, 地震波速度構造, 東北日本弧, 活断層
2011年M9東北沖地震は震源域が南北500 km、東西200 kmにおよび、日本列島域の広域にわたって大きな変形をおよぼした。日本列島域には稠密なGPS観測網が備わっており、地殻変動データの空間的な解析により、東北沖地震の震源だけでなく地下の物性構造の情報を得ることも可能である。東北日本弧はユーラシアプレートに太平洋プレートが沈み込むことによって形成された島弧であり、現在の火山フロントは奥羽脊梁山脈に沿って存在する。地震波トモグラフィーにより、火山フロントの直下には暖かいマグマ物質による地震波の低速度領域、太平洋岸の下部に地殻の薄化とマントル物質の上昇による高速度領域が指摘されている。そこで本研究では、日本列島域の三次元的な地殻構造を取り入れた有限要素モデルを構築しインバージョンによって得られた東北沖地震のすべり分布を用いて、東北日本下の地下不均質がどのように地殻変動に影響を与えるのかを調べた。観測データとしては、国土地理院による陸域のGPS観測データと海上保安庁と東北大学による海域のGPS音響測距によるデータを用いた。モデル領域として4500 km×4900 km×600 kmの領域をとる。これは千島列島-マリアナ列島-琉球列島までを含む領域に対応する。プレート境界形状としては、地震活動などから求めた既存の研究を補間したものを用いた。モデル領域は5-100 kmの大きさの100万個程度の四面体メッシュによって分割した。重力の影響については地震時の変形に関しては非常に小さかったので無視した。弾性構造については、鉛直方向の構造についてはPREMモデルによる弾性定数を用い、太平洋岸直下の高速度と火山フロント直下の低速度を表現するために、それぞれ厚さ80 kmの速度異常領域を導入した。地殻不均質の影響を調べるために対応する成層構造媒質でも計算を行った。計算の結果、得られたすべり分布に関しては、成層構造モデルと地殻不均質構造モデルでほぼ同じすべり分布が得られた。すなわち、地殻不均質による地殻変動パターンのずれは、すべり分布のインバージョンには影響しない。一方、これを用いて計算した地表観測点での両モデルの地殻変動結果を、観測変位から計算変位を差し引いた残差ベクトルのパターンで比較した。成層構造モデルを用いた場合、東北日本のほとんどの領域で有意の東向きの残差ベクトルが見られ、太平洋岸沿いに有意の西向きの残差ベクトルが見られる。地殻不均質構造モデルの場合、これらの残差ベクトルは小さくなり観測データをより良く説明できる。このように、広域的な地殻変動データを用いることにより地下の弾性構造を抽出することが可能となる。また、このような地下構造を考慮することでより現実的な応力状態の計算が可能になる。