日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS01] Geoconservation and sustainable development

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*目代 邦康(自然保護助成基金)、Abhik Chakraborty(伊豆半島ジオパーク)

18:15 〜 19:30

[MIS01-P02] 地域が保全を進める際の課題 -白山での事例を通じて-

*中村 真介1 (1.白山手取川ジオパーク推進協議会)

キーワード:保全, 日本, 地域, 管理, 自然公園, 砂防

地質や地形も含む地域の自然環境の保全は、地域資源を活かした持続可能な地域の発展を図る上で、必要な条件である。日本では、生態系の保全を図るユネスコエコパークや、地学的保全を図るジオパークなどの国際的なプログラムが市町村などの地域レベルで進行しており、地域レベルで保全を進めるのに適した環境が整っているようにもみえるが、現実の取り組みは必ずしも進んでいるとは言えない。本報では、地域(市町村)が保全を進める上での課題について、白山の事例を通じて、日本の社会事情と自然環境の2つの側面から整理を試みる。

1.社会的側面

地域レベルでの保全を進める上で有効な国際プログラムとして、ユネスコエコパークやジオパークが挙げられる。ユネスコエコパークは保全・経済と社会の発展・学術的研究支援の3つを、ジオパークは保全・教育・ジオツーリズムを活用した持続可能な地域の発展の3つを、それぞれ重視している。保全は両方に共通する、重要な要素となっている。
しかし、日本のユネスコエコパークやジオパークの活動の中で、保全活動の占める比率は必ずしも大きくない。その背景として、制度的な問題が挙げられる。教育や経済と社会の発展は、何か新しいアクションを起こそうという能動的な活動であるのに対し、保全は、何らかの活動が行われないように規制しようとする受動的な活動であることが多い。何らかの規制を行うためには、法的枠組みを整備する必要があるが、日本では、保全に関わる法的枠組みの多くは国や都道府県が所管しており、市町村にとっては手が及ばない領域となっている。
例えば白山では、自然環境の保全を図る法的枠組みとして、白山国立公園や白山一里野県立自然公園などの自然公園がある。また、国有林野の中には白山森林生態系保護地域などの保護林がある。しかし、これらは国または県が管理するものであり、市町村が自ら設定したり、権限を行使したりすることはできない。
加えて、保全活動については、何をすればよいのかわからないということが少なくない。保全活動はその思想を広めることだと考えられていることも多く、教育活動や普及啓発活動との区別がつきにくくなっている。

2.自然的側面

日本列島は変動帯にある。環太平洋造山帯に沿って4枚のプレートがぶつかり合い、火山活動が活発で地震も頻発している。また、降水量が多い地域であり、特に日本海側では冬季の降雪量が多いため、土砂災害や雪崩の危険を常に抱えている。例えば白山では、1934年に発生した土砂災害により、集落がそのまま地面の下に埋まるという大きな変化が起こったこともある。
このように、変動を続ける大地において保全を考えたとき、守るべき対象は何なのか、という疑問が生じる。例えば白山では、火山性の地質や多雪の影響で山が崩れやすくなっており、土砂流出が恒常的に続いている。過去に大規模な土砂災害が発生したこともあり、下流域の住民の生活を守るため、浸食を抑制し、山からの土砂の流出を緩和する砂防工事が行われている。これは、大地の変動の一環である土砂の流出を人為的に止めるという観点からは、保全の精神に反する行為である。しかし一方で、住民生活の安全という観点からは、その存在を一概には否定できない面もある。また、砂防が崩れを抑止するという点では、大地の安定を保っているという捉え方もできるかもしれない。
生態系の保全においても、ジレンマは存在する。例えば白山では、高山帯には自生していない低地性植物が、登山者の靴に種子が付着して運ばれることにより高山帯に侵入し、繁殖し、高山植物の生息域を侵食している。白山では現在、これらの低地性植物を除去する活動が行われており、高山植物の側に立てば保全の精神に適った活動である。一方で、低地性植物の側に立てば、新たに獲得したニッチを奪われる形となっており、低地性植物の除去を否定的に捉える地域住民もいる。