日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震予知・予測

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 103 (1F)

コンビーナ:*中島 淳一(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、座長:林 豊(気象研究所)、熊澤 貴雄(統計数理研究所)

11:45 〜 12:00

[SSS27-07] 前震活動に基づく地震発生の経験的予測-長野県北中部地域への適用-

*前田 憲二1弘瀬 冬樹1 (1.気象研究所)

キーワード:地震予測, 予測効率, 前震, 長野県, 地震統計, 経験則

【はじめに】 2014年11月22日22時08分に長野県北部の神城断層付近でM6.7の地震が発生し(最大震度6弱)、負傷者や住家全半壊などの被害を生じた。気象庁の一元化カタログによると、この地震の約4日前の11月18日から19日にかけて、本震のごく近傍でM3クラス以下の地震が40個程度発生しており、小規模ながら活発な前震活動があったことを示している。しかし、こういった前震活動と本震との因果関係は物理的には解明されておらず、本震発生前に前震を識別し、本震発生を高い精度で予測することは一般に困難である。一方で、続発的に地震が発生しやすい特定の地域では、本震前に活発な地震活動がみられる場合があり、その統計的性質から本震発生を経験的に比較的効率よく予測できる場合がある。そのような地域として、Maeda(1996, BSSA)、前田・弘瀬(2012年秋、地震学会)やMaeda & Hirose(2014年春、合同大会)は日本海溝沿いの3領域や伊豆地域を指摘し、これらの領域における前震を基にした予測効率を明らかにしてきた。本発表では、これまで提案してきた手法を上記の長野県北部の地震を含む長野県北中部の領域に適用し、この地域ではどのようなまとまった地震活動を前震活動とみなせば、過去の事例から経験的に本震(ここではM5以上とした)の予測に効率的であるかについて調査したので報告する。

【予測手法】 前震識別の手順は、1)震源カタログから本震とのマグニチュードの差が1以上の余震活動を除去し、2)特定の大きさ(緯度D°×経度D°)のセグメントの中で、特定の規模(Mf)以上の地震が特定の期間(Tf日)の間に特定の数(Nf)だけ発生した時、前震(群)の候補とみなし、3)その後特定の期間(Ta日)内に本震が発生した場合に真の前震(群)であったと判定する。4)この前震(群)の定義において、D, Mf, Tf, Nf, Taをパラメータとして、本震を予測するために効率のよい前震(群)のパラメータをグリッドサーチにより求める。予測効率の指標としては、本震は時空間的に一定の発生率を持ってランダムに発生すると仮定したモデルを基準とし、前震候補による予測時空間における本震発生率が他の時空間より高いとする予測モデルとのAICの差(dAIC)を主に用い、その他、予知率(AR:予測された本震の割合)や適中率(TR:真の前震の割合)、確率利得(PG:背景確率に対する予測時空間の発生確率の比)も補助的に用いた。

【データおよび解析結果】 1998年から2014年までの気象庁の震源カタログからM1以上、深さ30㎞以浅の地震に対し、D(0.1, 0.2, 0.3), Mf(1, 1.5, 2, 2.5, 3), Tf(1, 2, 3, 5, 10), Nf(1, 2,...,20), Ta(1, 2,...,30) の45000ケースについてグリッドサーチを行った結果、長野県北中部地域(35.6°N-37.1°N, 137.2°N-139.0°E)のM5以上の本震を予測するには、一辺0.1°の大きさの矩形領域内に1日間にM2以上の地震が5個発生した場合を前震候補とし、その後5日間にM5以上の地震(余震は除く)が発生するという予測が予測効率として最も良いことが分かった。このパラメータ値を選択した場合、予知率は約45%(=5/11)、適中率は約12% (=8/69)、PG=333、dAIC=66であり、冒頭の長野県北部の地震も予測された地震に含まれる。言い換えると、長野県北中部においては、2014年11月22日の本震の約4日前からみられたような(上記のパラメータで定義される)地震活動がM5.0以上の本震に至る割合は約12%であり、M5.0以上の地震の約45%はそのような(上記のパラメータで定義される)前震活動を伴う、といえる。これまでの調査で予測効率が比較的高いことが分かっている日本海溝沿いの3領域〔予知率=約38%(=11/29)、 適中率=約30%(=13/44)〕や伊豆地域〔予知率=約68%(=44/65) 、適中率=約23% (=46/196)〕に比べると、予測効率は、特に適中率の点であまり高くないことがわかる。このように、前震活動に基づく本震発生の予測効率は地域によって差がみられる。