日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 原子力と地球惑星科学

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 101A (1F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

10:00 〜 10:15

[HCG34-05] 江若花崗岩中の小規模破砕帯の走向に関する方位統計学的検討の試み

*島田 耕史1 (1.原子力機構)

キーワード:方位統計学, 破砕帯, 江若花崗岩, もんじゅ

はじめに:(独)日本原子力研究開発機構(以下,「JAEA」)の高速増殖原型炉もんじゅ(以下,「もんじゅ」)においては,敷地内破砕帯の追加地質調査の報告書を取りまとめて,原子力規制委員会に提出し,その後,評価が進められているところである。例えばもんじゅのような重要構造物の地盤に関係する自然現象に対する施設の安全性に関連して,地質等の調査結果が専門家との協働により公開の場で評価される状況は,地質学の実際問題への対応という意味で新たな領域を形成しつつある。そのような場では,現地を共に確認し,より科学的・客観的な吟味や評価を行うことが重要であろう。本報告では,JAEAが報告した内容のうち,もんじゅ敷地内に見られる江若花崗岩中に発達する小規模破砕帯の走向が示す複数の系統について,客観性の向上により説明をわかり易くすることを目的として試行している方位統計学的検討結果と若干の構造地質学的考察をのべる。
課題:これまでの報告(島田ほか,2014)では,互いに切断しあう「2系統」の破砕帯(β系,走向N10゜E前後;α‐3系,走向N50゜E前後)が分布することは露頭観察から自明としていた。「2系統」とした客観的な判断基準が与えられるべきである。
方法:水平露頭で観察される高角度傾斜の破砕帯および粘土を挟む不連続面の走向と長さを約15m四方の範囲の1/200スケッチから読み取り,長さを単位長さで割り,走向を単位長さ個数ならべたリストを作る。走向(0~180度)を方位統計学的に検討するために2倍する。García-Portugués(2013)の方法(フリー統計ソフトRとパッケージ“movMF”を使用)により,方位分布がいくつのフォン‐ミーゼス分布の混合か検討する。各分布の平均方位を2で割り走向に換算する。
結果:データは,8個のフォン‐ミーゼス分布の混合であると算出された。各平均走向(北から時計回りに180°表示)と集中度パラメータと全体に占める割合(mean strike in deg./kappa/fraction)は,10/12.5/0.147(≒β系),14/3.79/0.117,26/3.22/0.134,44/15.3/0.145(≒α-3系),47/3.55/0.116,66/2.55/0.110,132/4.14/0.066,169/4.63/0.167であった。これまで2系統と表現してきた破砕帯は,それぞれ集中度パラメータが10を超える2方向に近い。全体の方位密度分布曲線は2個のピークを示す(Fig. 1)。このことから,これまで自明とした主要な「2系統」は,方位集中度の方位統計学的検討によっても客観的に根拠づけられた。
考察:2系統の破砕帯は,β系は右ずれ,α-3系は左ずれを主体とする。両破砕帯内には黒雲母の塑性変形が普遍的に観察されるので,形成温度条件は比較的高温である。両破砕帯は方位統計学的に同程度に発達しており,N30゜E方向を挟む斜方対称的な分布をなし,互いに切断する関係である。これらのことから両破砕帯は共役系をなすと解釈される。すなわち,両破砕帯の形成時に,この付近は,N30゜E方向に短縮かつ直交方向に伸びるように変形した。この変形は,第四紀後期の東西短縮の状況とは整合しない。これらの状況は,両破砕帯が,現在の地表付近の環境で形成されたものではなく,古い地質構造であることを示している。
文献:Eduardo García-Portugués, 2013, Exact risk improvement of bandwidth selectors for kernel density estimation with directional data. Electron Journal of Statistics, vol. 7, 1655-1685.
Hornik, K. and Grun, B., 2014, movMF: an R package for fitting mixtures of von Mises-Fisher
distributions. Journal of Statistical Software, 58(10):1?31
R Core Team, 2014, R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. URL http://www.R-project.org/.
島田ほか,2014,江若花崗岩中の小規模破砕帯の剪断センスの逆転.日本地質学会第121年学術大会講演要旨.
Fig.1 方位密度分布曲線 横軸は走向で360°表示,縦軸は分布密度(平均1)を示す。