日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS23] 月の科学と探査

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*長岡 央(早稲田大学先進理工学部)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、Masaki N Nishino(Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University)、本田 親寿(会津大学)、長 勇一郎(立教大学理学部)

18:15 〜 19:30

[PPS23-P10] 月レゴリス粒子の3次元形状の特徴:イトカワ・衝突実験粒子との比較

*櫻間 卓志1土山 明1中野 司2上杉 健太郎3 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.産業技術総合研究所 地質情報研究部門、3.高輝度光科学研究センタースプリング8)

キーワード:アポロ計画, ルナ計画, はやぶさ計画, X線CT, スプリング8

月や小惑星などの大気のない天体でのレゴリスの形成・進化を明らかにするため、レゴリス粒子の3次元形状分布が測定され、高速衝突実験破片粒子との比較がなされている。はやぶさ計画による小惑星イトカワの粒子の3次元外形はマイクロCTにより測定され[1]、その3次元形状分布が衝突実験破片粒子[2]のものとは区別できないが、アポロ16号(デカルト高地)の月粒子(60501)[3]はイトカワ粒子に比べてより球状に近いことが提唱された。また、60501に加えてアポロ11号(静かの海)の月粒子(10084)の3次元形状分布が測定され[4]、10084粒子もイトカワ粒子より球状に近いことが示された。しかしながら、これらの研究では1粒子毎をCT撮影しているため、データ取得に長時間を要するだけでなく、その粒子数も60個程度に留まっている。また、月のレゴリスは一般的には多様性をもっていると考えられるため、より多くのサンプルのデータを効率よく求める必要がある。そこで本研究では、より多くの月レゴリス粒子サンプルについて効率良くCT撮影し、月レゴリス粒子の3次元形状の特徴を明らかにするとともに、イトカワ粒子や高速衝突実験破片粒子との比較を試みた。
アポロサンプル(10084, 60501)に加えて、旧ソ連の無人月探査機ルナ16, 20, 24号が持ち帰ったサンプルL1613-3(Luna 16: 豊かの海)、L2001-4(Luna 20: アポロニウス高地)、L24130.3-2~4(Luna 24: 危機の海)の7種類のサンプルを用いた。爪楊枝に両面テープを巻きつけ、その周りにレゴリス粒子を貼り付けることにより、一度に多数の粒子の撮影をSPring-8 BL20B2の放射光マイクロX線CTを用いて行った(X線エネルギー: 17.9, 18.1 または20 keV、画素サイズ: 1.73μm/voxel)。二値化により抽出した粒子のうち有為な3次元形状測定が可能な10000以上の画素数をもつ粒子[5]のうち、粒子同士が接触していない粒子を解析した(現在のところ10084は156個、L2001-4は90個を解析した)。
粒子の軸長の測定には、3軸楕円体近似(Ovoid Approximation: OA)法およびノギス(Bounding Box: BB)法[4]を用いた。なおBB法では、短軸(S)・中軸(I)・長軸(L)を決める順序により軸長が変わるため、衝突実験破片粒子の測定に対応するように短・中・長軸の順 [6]および長・中・短軸の順に決める [2]の2つの手法を用いた。このようにして求めた短軸/中軸比と中軸/長軸比より3次元形状分布を求め、従来の月粒子データ[3,4]やイトカワ粒子[7]、衝突実験破片粒子[2,5,6]と比較した。Kolmogolov-Smilnov(KS)検定を用いて、2つの分布に有意な違いがあるか否かを検定した。
この結果、少なくとも10084については撮影方法(1粒子毎または同時に多数)の違いによる有意な違いは認められなかった。また、現在解析したサンプルについては、月レゴリス粒子同士では海と高地の違いも含めて基本的には有為な違いは認められなかった。一方、イトカワレゴリス粒子や高速衝突実験の破片粒子の分布と比較すると月粒子の方がより球状に近いことがわかった。月ではレゴリスでの滞在時間が10億年程度[8]と長いため、長期間にわたりガーデニングにより月レゴリス粒子は摩耗し、球状に近づいていったと考えられる。発表までには、より多くのサンプルを解析する予定である。
[1] Tsuchiyama et al. (2011) Science 333: 1125. [2] Capaccioni et al. (1984) Nature 308: 832. [3] Katagiri et al. (2014) J. Aerosp. Eng.. 10: 1061. [4] Tsuchiyama et al., (2013) Goldschmidt Conf. Abstract 2361. [5] 島田(2014) 大阪大学理学研究科修士論文. [6] Fujiwara et al. (1978) Nature, 272: 602. [7] Tsuchiyama et al (2014) MAPS, 49: 172. [8] Wieler (2002) Rev. Mineral. Geochem., 47: 21.