14:15 〜 14:30
[MIS29-15] 冬の日本海沿岸に到来する雷雲由来のガンマ線バースト観測
キーワード:雷雲ガンマ線, TGF, 陽電子生成
近年、数十MeVに達するガンマ線が雷雲や雷から生じる現象が報告されるようになってきた。この現象はガンマ線観測衛星によってTGF(terrestrial gamma-ray flashes)として宇宙で発見され、地上観測も行われている。我々が行っているGROWTH実験(Gamma-Ray Observation of Winter THunderclouds)では、2006年より新潟県柏崎刈羽原子力発電所内に複数の検出器を設置し、北陸冬季雷雲を由来とするガンマ線放射現象を観測してきた。この実験を続ける中で、雲中雷を含む雷放電と同時に生じる1秒以内の継続時間をもつショートバーストの他に、放電とは相関せず数分にわたって放射を持続し、雷雲と相関する「ロングバースト」があることが明らかになった(H. Tsuchiya+2007, 2011)。ロングバーストのガンマ線エネルギースペクトルは、多くの場合においてなだらかで構造がない形状をしており、雷雲電場によって相対論的速度まで加速された電子の制動放射によって概ね説明できる。ロングバーストの典型的な持続時間は1分程度である。これは、検出器上空を15 m/s程度で差し渡し1 km程度の大きさをもつ雷雲セルが通り過ぎる典型的なタイムスケールと一致するが、放射の開始・成長・消滅が原因であるのか、あるいは単に雷雲の移動が見えているのか不明である。従って、ガンマ線放射が何をきっかけとして始まり、どの程度持続し、何を原因として終了するか、という点は未知である。
2012年1月13日09:27、GROWTHの検出器に興味深い放射現象が記録された。雲中雷と200 ms以内で同期したショートバーストが観測され、その後1分以上にわたってロングバーストが継続した。後者の強度は時定数30秒で指数関数的に減衰した。
このロングバーストの際立った特徴として、まず、極めて顕著な511 keV 電子-陽電子対消滅線成分の存在が挙げられる。通常のロングバーストと共通する連続的な成分(連続成分)に対する輝線の強度を表す等価幅(equivalent width)というパラメータは、この対消滅線バーストでは280 keVに達していた。過去のロングバーストでは最大でも約140 keVで通常は50 keV程度であり、平常時の約5倍に及ぶ明瞭さであった。このバーストでのみ対消滅線が明るく観測された理由として、以下が考えられる。電子は制動放射する際に、電子の進行方向に集中して高いエネルギーのガンマ線を生じ、それ以外の方向へ放射されるガンマ線はエネルギーも個数も少なくなることが知られている。仮に多数の電子が同じ方向へ平行に加速されていれば、この効果は強められ、容易に観測可能となるはずである。ビームの軸から外れた位置に検出器があれば、対消滅線の源となる陽電子の発生元となった >1 MeVのガンマ線が特に弱まって観測され、相対的に対消滅線が顕著に観測されるはずである。このようなビームを原因とする現象は、過去にも雷雲の移動に伴って到来ガンマ線の平均エネルギー(連続分布の傾き)が変化する例として報告されている(H.Tsuchiya+2009, 2013)。
このイベントのもう一つの特徴として、放電と時を同じくしてロングバーストが開始した点がある。これまで放電と相関してロングバーストが開始した例はなかったが、放電と同時にバーストが停止する例は過去にも報告されている(H.Tsuchiya+2013)。これは放電によって雲中電場が消失し、電子の加速が止まったためであると自然に解釈できる。この対消滅線バーストにおいては逆転しており、例えば、放電によって雷雲内の電場構造が変化し、ロングバーストが開始したとも考えられるが、より深い考察が必要である。
以上の解釈が実際に正しいか検証するため、および、ロングバースト放射源の真の時間変動を観測する試みとして、我々は2014年11月、新たに方向感度のあるガンマ線検出器を柏崎刈羽原子力発電所に設置した。その結果、ロングバーストが今冬だけで6例観測された。2006年から2013年までの8年間の観測数12例と比べると、例年の約4倍である。検出器の有効面積を従来のものに対して倍増させたことと、今冬の日本海温度が例年よりも高く、反対に気温が低かったため、雷雲の成長が促されたことが理由として考えられる。これらの新しいバーストの中には、過去のGROWTHバースト中で最大のガンマ線統計のバーストが含まれており、そのバーストにはビーミングを示唆する徴候も見られた。その他にも、過去にGROWTHで報告されたような、放電と同時に終了するロングバーストが再び一件観測された。
2012年1月13日09:27、GROWTHの検出器に興味深い放射現象が記録された。雲中雷と200 ms以内で同期したショートバーストが観測され、その後1分以上にわたってロングバーストが継続した。後者の強度は時定数30秒で指数関数的に減衰した。
このロングバーストの際立った特徴として、まず、極めて顕著な511 keV 電子-陽電子対消滅線成分の存在が挙げられる。通常のロングバーストと共通する連続的な成分(連続成分)に対する輝線の強度を表す等価幅(equivalent width)というパラメータは、この対消滅線バーストでは280 keVに達していた。過去のロングバーストでは最大でも約140 keVで通常は50 keV程度であり、平常時の約5倍に及ぶ明瞭さであった。このバーストでのみ対消滅線が明るく観測された理由として、以下が考えられる。電子は制動放射する際に、電子の進行方向に集中して高いエネルギーのガンマ線を生じ、それ以外の方向へ放射されるガンマ線はエネルギーも個数も少なくなることが知られている。仮に多数の電子が同じ方向へ平行に加速されていれば、この効果は強められ、容易に観測可能となるはずである。ビームの軸から外れた位置に検出器があれば、対消滅線の源となる陽電子の発生元となった >1 MeVのガンマ線が特に弱まって観測され、相対的に対消滅線が顕著に観測されるはずである。このようなビームを原因とする現象は、過去にも雷雲の移動に伴って到来ガンマ線の平均エネルギー(連続分布の傾き)が変化する例として報告されている(H.Tsuchiya+2009, 2013)。
このイベントのもう一つの特徴として、放電と時を同じくしてロングバーストが開始した点がある。これまで放電と相関してロングバーストが開始した例はなかったが、放電と同時にバーストが停止する例は過去にも報告されている(H.Tsuchiya+2013)。これは放電によって雲中電場が消失し、電子の加速が止まったためであると自然に解釈できる。この対消滅線バーストにおいては逆転しており、例えば、放電によって雷雲内の電場構造が変化し、ロングバーストが開始したとも考えられるが、より深い考察が必要である。
以上の解釈が実際に正しいか検証するため、および、ロングバースト放射源の真の時間変動を観測する試みとして、我々は2014年11月、新たに方向感度のあるガンマ線検出器を柏崎刈羽原子力発電所に設置した。その結果、ロングバーストが今冬だけで6例観測された。2006年から2013年までの8年間の観測数12例と比べると、例年の約4倍である。検出器の有効面積を従来のものに対して倍増させたことと、今冬の日本海温度が例年よりも高く、反対に気温が低かったため、雷雲の成長が促されたことが理由として考えられる。これらの新しいバーストの中には、過去のGROWTHバースト中で最大のガンマ線統計のバーストが含まれており、そのバーストにはビーミングを示唆する徴候も見られた。その他にも、過去にGROWTHで報告されたような、放電と同時に終了するロングバーストが再び一件観測された。